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支援実績と利用成果

代謝性疾患治療を目指したSREBP-1結合化合物の探索

利用者 東京大学
大学院農学生命科学研究科
高橋 裕先生
内容 Sterol regulatory element-binding protein-1(SREBP-1)は脂肪酸生合成を包括的に司る小胞体膜結合型の転写因子である。糖尿病などの代謝性疾患のモデル動物においてSREBP-1の発現上昇、活性化が見られることから、SREBP-1の阻害は当該疾患の治療に結びつく可能性が考えられる。本研究ではSREBP-1に対して直接作用する低分子化合物を見出すため、精製したSREBP-1タンパク質に結合する化合物のHTS評価系を構築した。本評価系を用いて創薬機構の化合物ライブラリから2種類のヒット化合物を同定した。
成果掲載誌 Discovery of novel binders to sterol regulatory element-binding protein-1 by high-throughput screening
Takashi Maruyama, Yu Takahashi, Kahori Hiro, Kohji Murase, Hirotatsu Kojima, Takayoshi Okabe, Yoshio Yamauchi, Ryuichiro Sato
ACS Med. Chem. Lett. in press (2024) doi: 10.1021/acsmedchemlett.4c00067
化合物

翻訳機構に着目した抗SARS-CoV-2薬の探索

利用者 兵庫県立大学
大学院工学研究科
今高寛晃先生
内容 プログラム-1リボソームフレームシフト(-1 PRF)は、SARS-CoV-2を含むいくつかのウイルスが採用している特殊な翻訳機構である。本研究では、HeLa細胞抽出物由来の無細胞タンパク質合成(CFPS)系を用いたハイスループットスクリーニングシステムを構築し、Core LibraryおよびAdvanced Core Libraryを対象に、SARS-CoV-2の-1 PRFを阻害する化合物の探索を行った。その結果、SARS-CoV-2の-1 PRFをCFPSアッセイ系およびトランスフェクト細胞アッセイ系の両方において抑制する化合物を同定した。
成果掲載誌 High-throughput screening for a SARS-CoV-2 frameshifting inhibitor using a cell-free protein synthesis system
Kodai Machida, Rin Tanaka, Seraya Miki, Shotaro Noseda, Mayumi Yuasa-Sunagawa, Hiroaki Imataka
BioTechniques 76, 161–168 (2024) doi: 10.2144/btn-2023-0102
化合物

新規メカニズムによるアミロイドβ産生阻害薬の探索

利用者 滋賀医科大学
神経難病研究センター
西村正樹先生
内容 アルツハイマー病の分子病態はアミロイドβ(Aβ)の脳内蓄積によって引き起こされる。脳Aβの産生抑制は治療戦略として有効であるが、産生に関わるタンパク質分解酵素γセクレターゼやβセクレターぜの阻害薬は重篤な副作用を伴うことから臨床応用には至っていない。我々はγセクレターゼと結合しながら酵素活性を阻害することなくAβ産生を抑制するタンパク質ILEIを同定している(Nat Commun, 2014)。健常脳において、ILEIはAβの直前の基質APP-CTFβを不安定化することでAβ産生レベルを抑制しているが、アルツハイマー病の患者では脳の発現レベルが低下する。
本研究では、ILEI活性を模倣する薬剤を探索するため、培養細胞を用いてAPP-CTFβレベルの減少を指標に化合物ライブラリーをスクリーニングした結果、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤として知られるベンズアミド誘導体MS-275がヒットした。MS-275はHDAC阻害活性とは無関係なILEI様活性によりAβ産生を減少させることが明らかになり、アルツハイマー病モデルマウスに2ヶ月間投与すると副作用なく脳Aβ沈着を有意に抑制した。類似のメカニズムによるAβ産生阻害薬は知られておらず、臨床応用が期待できる。
成果掲載誌 Reduction of amyloid-β production without inhibiting secretase activity by MS-275
Yachiyo Mitsuishi, Masaki Nakano, Hirotatsu Kojima, Takayoshi Okabe, Masaki Nishimura
ACS Chem. Neurosci. 15, 1234 (2024) doi: 10.1021/acschemneuro.3c00848

ホスファチジルコリン生合成阻害剤の探索

利用者 山形大学
理学部
田村 康先生
内容 リン脂質は生体膜の主要成分であり、細胞やオルガネラを形成する構造的な役割に加え、様々な生命機能を調節する制御的な役割を果たす。特定のリン脂質の生物学的意義を研究するためには、そのリン脂質の合成を阻害する薬剤を用いるのが効果的であるが、これまでそのような化合物は開発されてこなかった。本研究では、出芽酵母を用いた化合物スクリーニングを行い、主要なリン脂質であるホスファチジルコリン(PC)の生合成を阻害する低分子を複数同定した。これらの化合物をPCiB-1, 2, 3, 4と命名し、解析を進めたところ、PCiB-2, 3, 4はPCの前駆体リン脂質であるホスファチジルエタノールアミン(PE)のメチル化反応を阻害することでPC合成を阻害することがわかった。 またPCiB-1はミトコンドリアから小胞体へのPE輸送を阻害することで、PC合成を阻害することが示唆された。PCiB処理によってミトコンドリアの分裂が顕著に促進することもわかり、これらの結果から、正常なPCの生合成がミトコンドリア分裂の制御に重要であることを見出した。
成果掲載誌 Chemical inhibition of phosphatidylcholine biogenesis reveals its role in mitochondrial division
Hiroya Shiino, Shinya Tashiro, Michiko Hashimoto, Yuki Sakata, Takamitsu Hosoya, Toshiya Endo, Hirotatsu Kojima, Yasushi Tamura
iScience 27, 109189 (2024) doi: 10.1016/j.isci.2024.109189
化合物

褐色脂肪細胞におけるUCP1の活性化化合物の発見

利用者 岩手医科大学
長谷川豊先生
内容 褐色脂肪細胞における脱共役蛋白質1(UCP1)の活性化化合物をHTSにて同定し、その作用機序を解明した。この化合物をマウスに投与すると、基礎代謝が上がることで、体重増加を抑えられ、肥満の抑制効果があった。本化合物は、脂肪細胞における熱産生が亢進することで、体内の糖や脂質が消費されるため、体重の減量につながるだけでなく、肥満やメタボリックシンドロームに関連する糖尿病や脂質異常症、脂肪肝・非アルコール性脂肪性肝疾患など様々な疾患への応用が期待される。
成果掲載誌 A newly identified compound activating UCP1 inhibits obesity and its related metabolic disorders
Ken Onodera, Yutaka Hasegawa, Nozomi Yokota, Shukuko Tamura, Hirofumi Kinno, Iwao Takahashi, Hiraku Chiba, Hirotatsu Kojima, Hideki Katagiri, Koji Nata, Yasushi Ishigaki
Obesity 32, 324338 (2024) doi: 10.1002/oby.23948
化合物

iPS細胞由来顆粒球前駆細胞の貪食能早期獲得を誘導する化合物の探索

利用者 東京大学
医学部附属病院
日野俊哉先生
内容 担がん患者は健常者と比較して感染症の発症リスクが高く、化学療法による高度顆粒球減少時には大量の抗生剤投与を行ってもしばしば重篤な経過を辿る。顆粒球輸注療法は顆粒球が減少する病態での重症感染症に対する治療手段であるが、輸注に必要な顆粒球を得るに健常ドナーから連日体外循環による顆粒球採取が必要となることが問題である。われわれは、ヒト人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell: iPS細胞)からin vitroで大量培養可能な顆粒球前駆細胞を開発し、その細胞が4日間で好中球へと分化することを過去に報告したが、本研究では、iPS細胞由来顆粒球前駆細胞の好中球分化に要する期間をさらに短縮することを目的として、創薬機構より提供された1885種類の既知薬理活性試薬を用いてスクリーニングを行い、AKT阻害剤が貪食能の早期獲得を誘導することを見出した。さらに、AKTのアイソフォームの中でAKT2を阻害することが貪食能の早期獲得の機序であることを明らかにした。これらの研究成果は、臨床応用可能なiPS細胞由来好中球を迅速に生産するための戦略開発につながることが期待される。
成果掲載誌 AKT2 inhibition accelerates the acquisition of phagocytic ability in induced pluripotent stem cell-derived neutrophils
Toshiya Hino, Fumio Nakahara, Masashi Miyauchi, Yusuke Ito, Yosuke Masamoto, Ken Morita, Yuki Kagoya, Hirotatsu Kojima, Mineo Kurokawa
Exp. Hematol. 130, 104137 (2024) doi: 10.1016/j.exphem.2023.104137

細菌のシステイン合成酵素阻害薬の探索

利用者 熊本大学
生命科学研究部
澤智裕先生
内容 近年、抗菌剤はその特異的な作用以外に細菌の酸化ストレスを増強することで抗菌活性を発揮することが報告されている。本研究では、細菌の抗酸化に関与しているシステインの合成酵素を標的とした新規抗菌活性物質のスクリーニングを行った。その結果、目的の活性を示す化合物を同定し、さらにそのアルキル鎖が付加された化合物はそれ自身が強力な抗菌活性を持つこと、また薬剤耐性菌に対して、既存の抗菌剤に対する感受性を顕著に回復させる作用を持つことを明らかにした。
成果掲載誌 Alkyl gallates inhibit serine O-acetyltransferase in bacteria and enhance susceptibility of drug-resistant Gram-negative bacteria to antibiotics
Touya Toyomoto, Katsuhiko Ono, Tomoo Shiba, Kenta Momitani, Tianli Zhang, Hiroyasu Tsutsuki, Takeshi Ishikawa, Kanae Hoso, Koma Hamada, Azizur Rahman, Liping Wen, Yosuke Maeda, Keiichi Yamamoto, Masao Matsuoka, Kenjiro Hanaoka, Takuro Niidome, Takaaki Akaike, Tomohiro Sawa
Front. Microbiol. 14, 1276447 (2023) doi: 10.3389/fmicb.2023.1276447

2型リアノジン受容体選択的阻害剤の探索

利用者 東京医科歯科大学
生体材料工学研究所
影近弘之先生
内容 2型リアノジン受容体(RyR2)は心筋細胞の筋小胞体膜上に発現しているカルシウムイオン放出チャネルであり、心筋細胞の筋収縮を司っており、遺伝子変異などに起因するRyR2の異常活性化は様々な心疾患の原因となることが知られている。そのため、RyR2阻害活性を有する化合物は心疾患治療薬として求められているが、これまでに心疾患治療薬として上梓されているRyR2阻害剤はない。発表者らはこれまでにRyR2の機能を間接的に測定する手法を開発しており、今回、創薬機構の化合物サンプルのスクリーニングの結果、RyR2選択的な阻害活性を有するヒット化合物を見出した。構造活性相関研究の結果、ヒット化合物から300倍以上の活性を有する化合物の開発に成功した。また得られた相関情報から、cis-amide構造が活性発現に重要であると考え、結晶構造と温度可変NMRで活性化合物の構造を解析し、活性化合物がcis-amide構造を持つことを明らかにした。さらに、合成した高活性化合物は、遺伝子変異マウスの心臓から摘出した心筋細胞が示す異常なカルシウムシグナルをキャンセルすることを示し、新たな心疾患治療薬としての可能性を示した。
成果掲載誌 A potent and selective cis-amide inhibitor of ryanodine receptor 2 as a candidate for cardiac arrhythmia treatment
Ryosuke Ishida, Nagomi Kurebayashi, Hiroto Iinuma, Xi Zeng, Shuichi Mori, Masami Kodama, Takashi Murayama, Hiroyuki Masuno, Fumi Takeda, Masatoshi Kawahata, Aya Tanatani, Aya Miura, Hajime Nishio, Takashi Sakurai, Hiroyuki Kagechika
Eur. J. Med. Chem. 262, 115910 (2023) doi: 10.1016/j.ejmech.2023.115910

細菌由来V-ATPase阻害剤の探索

利用者 千葉大学
大学院理学研究院
村田武士先生
内容 V-ATPaseは細菌の細胞膜に発現し、Na+を輸送することでアルカリ性条件下での恒常性維持に重要な役割を果たしている。本研究では新規スクリーニング法を開発し、創薬機構の化合物ライブラリーから約7万サンプルのスクリーニングを行い、V-ATPase阻害剤を同定した。同阻害剤は精製したV-ATPaseのATPase活性を阻害し、V-ATPaseが発現する病原菌・薬剤耐性菌の生育をアルカリ性条件下で特異的に抑制した。
成果公表 WO2020149295A1

新規抗菌剤開発を目指したシトクロムc酸化酵素阻害剤の探索

利用者 国立循環器病研究センター
分子薬理部
新谷泰範先生
内容 現在、世界的に薬剤耐性が広がっており、有効な治療薬がなくなることが現実的脅威となっている病原菌が複数存在し、新規メカニズムに基づく抗菌剤の開発が求められている。本研究では、創薬機構の化合物ライブラリーからミトコンドリアの呼吸鎖酵素の一つであるシトクロムc酸化酵素のアロステリック阻害剤を同定し、X線結晶構造解析を用いて結合部位を明らかにした。阻害剤の結合する部位の表面構造は、ヒトを含む真核生物の酵素と病原菌を含む細菌の酵素では大きく異なることを利用し、ヒト型呼吸鎖酵素には作用せず、淋菌の標的酵素に特異的なアロステリック阻害剤を合理的に見出した。既存の抗菌薬が効かないスーパー耐性淋菌にも抗菌作用を示し、新しいタイプの抗菌剤開発へつながる可能性が示唆された。
成果掲載誌 Identifying antibiotics based on structural differences in the conserved allostery from mitochondrial heme-copper oxidases
Yuya Nishida, Sachiko Yanagisawa, Rikuri Morita, Hideki Shigematsu, Kyoko Shinzawa-Itoh, Hitomi Yuki, Satoshi Ogasawara, Ken Shimuta, Takashi Iwamoto, Chisa Nakabayashi, Waka Matsumura, Hisakazu Kato, Chai Gopalasingam, Takemasa Nagao, Tasneem Qaqorh, Yusuke Takahashi, Satoru Yamazaki, Katsumasa Kamiya, Ryuhei Harada, Nobuhiro Mizuno, Hideyuki Takahashi, Yukihiro Akeda, Makoto Ohnishi, Yoshikazu Ishii, Takashi Kumasaka, Takeshi Murata, Kazumasa Muramoto, Takehiko Tosha, Yoshitsugu Shiro, Teruki Honma, Yasuteru Shigeta, Minoru Kubo, Seiji Takashima, Yasunori Shintani
Nat. Commun. 13, 7591 (2022) doi: 10.1038/s41467-022-34771-y
化合物

非アルコール性脂肪肝炎(NASH)治療につながるリポファジー活性化剤の探索

利用者 京都府立医科大学
循環器内科
星野 温先生
内容 本研究では脂肪滴に対するオートファジーであるリポファジーが非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に対して保護的に働くことを見出した。そこでリポファジー活性化剤を創薬機構の化合物ライブラリーからスクリーニングし、既に臨床で使用されている薬剤であるジゴキシンとアルペリシブを同定した。両薬剤はマウス疾患モデルにおいてNASHを抑制することが明らかとなり、NASHの新たな治療薬となる可能性が示唆された。
成果掲載誌 Liver lipophagy ameliorates nonalcoholic steatohepatitis through extracellular lipid secretion
Yoshito Minami, Atsushi Hoshino, Yusuke Higuchi, Masahide Hamaguchi, Yusaku Kaneko, Yuhei Kirita, Shunta Taminishi, Toshiyuki Nishiji, Akiyuki Taruno, Michiaki Fukui, Zoltan Arany, Satoaki Matoba
Nat. Commun. 14, 4084 (2023) doi: 10.1038/s41467-023-39404-6

皮膚再生促進剤の探索

利用者 日本メナード化粧品株式会社
山田貴亮様
内容 幹細胞は、骨髄、肝臓、膵臓、皮膚、脂肪、脳等、あらゆる臓器・組織に存在することが明らかにされ、各臓器・組織の再生及び恒常性維持を司っている。そのため、各臓器・組織に存在する幹細胞を増殖能力や分化能力を向上させる技術は、組織恒常性維持、損傷組織の修復・再生、各種疾患の予防・治療・改善等、抗加齢(抗老化)の用途に極めて有効であると考えられる。特に、皮膚組織は、複雑な三次元構造を取っており、また、人の身体の最外層に備わっているため、外的傷害によるダメージを受けやすい組織であり、この組織の再生技術を進歩させることは極めて重要である。そこで、創薬機構から提供された化合物を用いてスクリーニングを実施し、皮膚幹細胞の増殖を促進して皮膚の再生に寄与しうる化合物を見出した。
成果公表 特開2023-45939 特開2023-54511

ジベレリン受容体アゴニストの発見

利用者 愛媛大学
プロテオサイエンスセンター
野澤 彰先生
内容 われわれは、植物ホルモンであるジベレリンの受容体に対する新規アゴニスト分子「ジフェガラクチン」をコムギ無細胞系を利用した化合物スクリーニングによって発見した。ジフェガラクチンはブドウ、レタス、ミカンなど様々な植物に対してジベレリン様の活性を示した。また、ジフェガラクチンはジベレリン受容体の中でも主にB型の受容体に作用することから、植物ゲノム上に複数種類存在するジベレリン受容体の役割分担を解明する研究にも役立つことが期待される。
成果掲載誌 Identification of a new gibberellin receptor agonist, diphegaractin, by a cell-free chemical screening system
Akira Nozawa, Ryoko Miyazaki, Yoshinao Aoki, Reina Hirose, Ryosuke Hori, Chihiro Muramatsu, Yukinori Shigematsu, Keiichirou Nemoto, Yoshinori Hasegawa, Keiko Fujita, Takuya Miyakawa, Masaru Tanokura, Shunji Suzuki, Tatsuya Sawasaki
Commun. Biol. 6, 448 (2023) doi: 10.1038/s42003-023-04760-y
化合物

ヒト小腸オルガノイドの低コスト活用基盤の構築

利用者 東京大学
大学院農学生命科学研究科
高橋 裕先生
内容 オルガノイドは臓器特異的な幹細胞およびその分化細胞から構成される臓器モデルであり、従来の培養モデルよりも生理的であると考えられている。特にヒトオルガノイドはヒト生物学の解明に迫るための実験ツールとして、様々な研究分野における活用が期待されている。しかし、ヒトオルガノイドの培養には高額な組換えタンパク質やマトリゲルなどの細胞外基質が必要であり、特に基礎研究においてオルガノイドの活用が進まない要因の一つになっている。これまでに我々は、Wnt3a, R-spondin1, Nogginを安定発現させたマウスL細胞(L-WRN細胞)の培養上清を培地として用いることで、ヒト小腸オルガノイドの培養コスト削減を達成してきた(Stem Cell Reports, 2018)。しかし日常的な使用や大規模スクリーニングを行う場合など、大量培養が必要とされる場合には培養コストは依然として高く、それを削減するための試みが求められていた。
今回、我々はL-WRN細胞にさらにhepatocyte growth factorを発現させ、その細胞の培養上清を培地に用いることで、ヒト小腸オルガノイド培養の更なるコスト削減に成功した。また、マトリゲルよりも安価なI型コラーゲンゲルを用いても、基本的な性質を変えることなくヒト小腸オルガノイドの培養が可能であることを示した。これらの方法を組み合わせることで、培養コストを当初の1/100以下にまで抑えることができ、ヒト小腸オルガノイドを大量に使用するための基盤を構築できた。本培養方法により得られたヒト小腸オルガノイドを用いて、既知薬理活性化合物ライブラリーからオルガノイド選択的に細胞毒性を示す化合物スクリーニングを行い、YC-1など複数種類の化合物を見出すことに成功した。本研究により、少なくとも費用の観点からヒト小腸オルガノイドの培養が容易になり、今後、様々な研究分野においてヒト小腸オルガノイドの活用がさらに広がるものと期待される。
成果掲載誌 Drug cytotoxicity screening using human intestinal organoids propagated with extensive cost-reduction strategies
Yu Takahashi, Yu Inoue, Shintaro Sato, Takayoshi Okabe, Hirotatsu Kojima, Hiroshi Kiyono, Makoto Shimizu, Yoshio Yamauchi, Ryuichiro Sato
Sci. Rep. 13, 5407 (2023) doi: 10.1038/s41598-023-32438-2
化合物

DNA二本鎖切断化合物の発見

利用者 順天堂大学
健康総合科学先端研究機構
砂田成章先生
内容 DNA二本鎖切断は、細胞にとって深刻なDNA損傷であり、がん臨床ではDNA障害型抗がん剤の作用機序として利用されている。われわれは、新たな抗がん剤探索を目的に、創薬機構のCore Library 9,600種を対象にDNA二本鎖切断を引き起こす化合物を探索した。その結果、強力なDNA損傷性を示す候補として、DNA damaging agent-1 (DDA-1)を見出した。DDA-1は、抗悪性腫瘍剤のエトポシドを代表としたトポイソメラーゼII (Top2)に対する阻害剤であり、特にTop2の2つのタイプα型とβ型のうち、α型の特異的な阻害剤であることが示唆された。β型阻害による心毒性の誘発は、臨床上の問題となり得る点から、DDA-1による副作用の少ない治療法の開発が期待される。
成果掲載誌 Discovery of novel DNA-damaging agents through phenotypic screening for DNA double-strand break
Doudou Zhang, Takashi Shimokawa, Qianqian Guo, Shingo Dan, Yoshio Miki, Shigeaki Sunada
Cancer Sci. 114, 1108–1117 (2023) doi: 10.1111/cas.15659
化合物

G9a阻害剤RK-701の鎌状赤血球症治療への応用

利用者 東京薬科大学
生命科学部
伊藤昭博先生
内容 鎌状赤血球症は、βグロビン遺伝子の点変異によりヘモグロビンが異常なヘモグロビンS(HbS)に変化することで発症し、溶血性貧血や血管閉塞性クリーゼを主症状とする遺伝性疾患である。鎌状赤血球症の治療戦略として、出生後に発現が抑制される胎児型ヘモグロビン (HbF) を再誘導するという方法が提唱されている。実際、胎児型ヘモグロビン誘導活性を示すヒドロキシウレアが鎌状赤血球症治療薬として臨床の場で使用されているが、安全性と有効性に問題がある。全世界で毎年約30万人の新生児が鎌状赤血球症を発症し、非常に多くの患者が存在することから、より強力で安全な胎児型ヘモグロビン誘導薬の開発が強く求められている。今回、提供された約14万種類の化合物からヒストンメチル化酵素G9aの阻害活性を持つ化合物の探索を目的としたハイスループットスクリーニングを行った。得られたヒット化合物とG9aの複合体の構造情報を基に化合物の最適化を行い、特異的で強力なG9a阻害剤RK-701の開発に成功した。RK-701は、ヒト赤血球細胞において胎児型γグロビンの発現を誘導し、既存の鎌状赤血球症治療薬ヒドロキシウレアよりも低濃度で優れた薬効を発揮することを明らかにした。また、マウスにRK-701を投与すると、ヒトの胎児型γグロビンに相当する胚型εyグロビンの発現が誘導されたことから、RK-701は動物モデルでも有効であり、鎌状赤血球症治療薬として有望であることを示した。さらに、RK-701によって発現するBGLT3長鎖ノンコーディングRNAがHbFの誘導に普遍的な役割を持つことを発見し、G9aによるHbF抑制機構を明らかにした。
成果掲載誌 A specific G9a inhibitor unveils BGLT3 lncRNA as a universal mediator of chemically induced fetal globin gene expression
Shohei Takase, Takashi Hiroyama, Fumiyuki Shirai, Yuki Maemoto, Akiko Nakata, Mayumi Arata, Seiji Matsuoka, Takeshi Sonoda, Hideaki Niwa, Shin Sato, Takashi Umehara, Mikako Shirouzu, Yosuke Nishigaya, Tatsunobu Sumiya, Noriaki Hashimoto, Ryosuke Namie, Masaya Usui, Tomokazu Ohishi, Shun-Ichi Ohba, Manabu Kawada, Yoshihiro Hayashi, Hironori Harada, Tokio Yamaguchi, Yoichi Shinkai, Yukio Nakamura, Minoru Yoshida, Akihiro Ito
Nat. Commun. 14, 23 (2023) doi: 10.1038/s41467-022-35404-0

ヒストンメチル化酵素G9a阻害剤ライブラリーヒットからRK-701の創製

利用者 理化学研究所
白井文幸先生
内容 ヒストンメチル化酵素G9aは、ヒストンH3の9番目のリジン残基のジメチル化(H3K9me2)を触媒する酵素であり、この酵素活性の亢進は、急性および慢性疼痛、線維症、口蹄疫、サルコメアアセンブリ、あるいは様々な癌の増殖などの幅広いヒト疾患に関連している。さらに、G9aの阻害は、βグロビン異常症(鎌状赤血球症およびβ-サラセミア)や、プラダー・ウィリー症候群の治療法として有効であるとも考えられている。しかし、UNC0638を含めた既存のG9a阻害剤は、毒性が強く、治療薬としては使用できなかった。我々は、約14万の化合物からG9a阻害活性を持つ化合物の探索を目的としたHTSを最初に行い、得られたヒット化合物とG9aの複合体のX線構造解析を行った。その情報を基にして化合物の酵素阻害活性や薬物動態プロファイルの最適化を経て、G9a阻害活性がヒット化合物よりも約200倍も高い「RK-701」の開発に成功した。 RK-701は、関連するG9a以外のメチル基転移酵素に対して1,000倍以上の選択性を持ち、既存のG9a阻害剤と比較して著しく毒性が低く、薬物動態も良好であった。そこで、In vivoでの薬効を確認するために、発がん物質ジエチルニトロソアミンで誘発される肝細胞がんの発がんモデルマウスにRK-701を投与したところ、RK-701は発がんを抑制する優れた薬効を発揮することが分った。本化合物は、抗癌剤としてのみならず、βグロビン異常症の治療薬としても有効であると考えられ、高次評価を進めている。
成果掲載誌 Discovery of novel substrate-competitive lysine methyltransferase G9a inhibitors as anticancer agents
Yosuke Nishigaya, Shohei Takase, Tatsunobu Sumiya, Ko Kikuzato, Tomohiro Sato, Hideaki Niwa, Shin Sato, Akiko Nakata, Takeshi Sonoda, Noriaki Hashimoto, Ryosuke Namie, Teruki Honma, Takashi Umehara, Mikako Shirouzu, Hiroo Koyama, Minoru Yoshida, Akihiro Ito, Fumiyuki Shirai
J. Med. Chem. 66, 6, 4059–4085 (2023) doi: 10.1021/acs.jmedchem.2c02059

ボルテゾミブによるスーパーオキシド検出系高感度化

利用者 京都府立医科大学
大学院医学研究科
松本みさき先生
内容 スーパーオキシドは高活性かつ短寿命であり、検出が困難であるため、複数の化学プローブが開発されスーパーオキシドの検出に用いられてきた。本研究では、ボルテゾミブ添加によりこの化学プローブ依存性スーパーオキシド検出系が増感されることを見出した。実験の結果、ボルテゾミブは化学発光プローブL-012およびhydroethidine (HE) プローブに良好な互換性を示し、ボルテゾミブ存在下で前者では5倍以上、後者では約2倍の増感作用が認められた。さらに、ボルテゾミブによる増感作用は薬理作用ではなくペプチドボロン酸構造に依存することを明らかにした。本研究の成果によって高感度なスーパーオキシド検出が可能となり、実験的研究への活用および将来的には臨床診断への応用が期待される。
成果掲載誌 Bortezomib is an effective enhancer for chemical probe-dependent superoxide detection
Misaki Matsumoto, Hikari Sawada, Kazumi Iwata, Masakazu Ibi, Nozomi Asaoka, Masato Katsuyama, Kaori Shintani-Ishida, Hiroshi Ikegaya, Shigehiko Takegami, Atsushi Umemura, Chihiro Yabe-Nishimura
Front. Med. (Lausanne) 9, 941180 (2022) doi: 10.3389/fmed.2022.941180

胎盤を構成する栄養膜細胞の分化を制御する薬剤探索

利用者 東京大学
大学院農学生命科学研究科
田中智先生
内容 胎盤は、栄養やガス交換、血管新生の誘引やホルモン分泌を担う、正常な妊娠・出産に必要不可欠な臓器であり、妊娠高血圧腎症や不育症などの妊娠期疾患の原因の一つに、胎盤を構成する栄養膜細胞の機能異常が考えられる。層状構造を示すヒトやげっ歯類の胎盤において、胎盤異常の主要な表現型として、特定の栄養膜細胞サブタイプ層の減少あるいは過形成が挙げられる。すなわち、特定の栄養膜細胞種が、しかるべき位置に、適切な量配置されることが、胎盤の正常な機能発揮に不可欠といえるが、栄養膜細胞の分化運命決定機構の詳細はいまだ明らかにされていない。
本研究では、栄養膜細胞の分化運命決定機構の解明を目指して、マウス栄養膜幹細胞を用いた低分子量化合物スクリーニングを行い、栄養膜細胞の分化運命決定に影響を及ぼす化合物を探索した。薬理活性既知の化合物ライブラリー (1904種)のスクリーニングの結果、N-Oleoyldopamine (OLDA)が、特定の栄養膜細胞サブタイプへの分化を促進させる候補化合物として同定された。網羅的なトランスクリプトーム解析や表現型解析の結果、OLDAがマウス栄養膜幹細胞から特定の栄養膜巨細胞への分化を促進させることが明らかとなった。
成果掲載誌 Crystal structures of the ligand-binding domain of human peroxisome proliferator-activated receptor δ in complexes with phenylpropanoic acid derivatives and a pyridine carboxylic acid derivative
Kenta Nishitani, Koji Hayakawa, Masayuki Minatomoto, Keisuke Tanaka, Hidehiko Ogawa, Hirotatsu Kojima, Satoshi Tanaka
Biochem. Biophys. Res. Commun. 636, 205–212 (2022) doi: 10.1016/j.bbrc.2022.10

セレノプロテインPの遺伝子発現を抑制する薬剤探索

利用者 金沢大学
大学院医薬保健学総合研究科
石井清朗先生
内容 インスリン抵抗性誘導ヘパトカインであるセレノプロテインPの遺伝子発現を抑制する薬剤の探索を試みました。具体的には、私たちは分泌型ルシフェラーゼを使用したセレノプロテインPプロモーター活性の迅速測定系を確立し、その活性を抑制する化合物を既存薬ライブラリーからスクリーニングしました。その結果、これまで免疫抑制剤として知られていたシクロスポリンAが肝細胞においてSTAT3不活性化に続くFoxO1抑制を介してセレノプロテインP遺伝子発現を抑制することを明らかにしました。今後、本研究成果が新しい糖尿病治療法の開発に役立つことが期待されます。
成果掲載誌 Cyclosporine A downregulates selenoprotein P expression via a signal transducer and activator of transcription 3–forkhead box protein O1 pathway in hepatocytes in vitro
Xingyu Yao, Hiroaki Takayama, Kyoko Kamoshita, Hein Ko Oo, Ryota Tanida, Kaisei Kato, Kiyo-Aki Ishii, Toshinari Takamura
J. Pharmacol. Exp. Ther. 382, 199–207 (2022) doi: 10.1124/jpet.121.001175

抗Candida albicans薬の探索

利用者 理化学研究所
Charles Boone先生
内容 真菌感染症は年間150万人以上の死亡原因となっており、中でもCandida albicansは最も重要なヒト真菌病原体の一つである。C. albicansは常在菌であるが、ヒト宿主の免疫力が低下すると、血流中に拡散し、最大で40%の死亡率を持つ感染症を引き起こすことがある。この高い死亡率の一因として、全身性感染症の治療に承認されている抗真菌剤の種類が限られていることが挙げられる。最も広く使用されているアゾール系抗真菌剤は、Erg11を標的としたエルゴステロール生合成の阻害剤である。臨床分離されたC. albicansの薬剤耐性、特にアゾール系薬剤耐性の上昇により、新規抗真菌戦略の探索の必要性が高まっている。そこで、9,600種の低分子化合物から成るCore LibraryよりC. albicansに対して新規の抗真菌活性を有する分子をスクリーニングしたところ、最も有望なヒット化合物として2,5-disubstituted pyridine構造を有するCpdLC-6888を同定した。CpdLC-6888はC. albicansおよび近縁種の増殖を阻害した。化学遺伝学的、生化学的、およびモデリング解析により、CpdLC-6888は、典型的なアゾール環を持たないにもかかわらず、アゾールのようにErg11を阻害することが示唆された。本研究は、2,5-disubstituted pyridineの C. albicans に対する抗真菌活性を明らかにし、既存の化合物コレクションの探索が新規抗真菌剤の同定に有用であることを示した。
成果掲載誌 High-throughput chemical screen identifies a 2,5-disubstituted pyridine as an inhibitor of Candida albicans Erg11
Antonia C. Du Bois, Alice Xue, Chester Pham, Nicole M. Revie, Kirsten J. Meyer, Yoko Yashiroda, Charles Boone, Justin R. Nodwell, Peter Stogios, Alexei Savchenko, Nicole Robbins, Kali R. Iyer, Leah E. Cowen
mSphere 7, e00075-22 (2022) doi: 10.1128/msphere.00075-22
化合物

新型コロナウイルスの感染を抑制するメタロプロテアーゼ阻害薬

利用者 東京大学
医科学研究所
山本瑞生先生
内容 新型コロナウイルスはウイルス外膜と細胞の膜(細胞膜やエンドゾーム膜)を融合させて感染します。この膜融合には細胞の膜上の受容体とタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)が重要です。われわれは、既に膜融合への関与が知られていたセリンプロテアーゼやシステインプロテアーゼに依存しない新たな感染経路を発見しました。
この新規経路はメタロプロテアーゼに依存し、SARSやMERSコロナウイルスなどには見られない新型コロナウイルス特有の経路です。さらに研究グループは癌転移抑制剤として開発が進んでいた複数のメタロプロテアーゼ阻害薬がこの経路を効果的に阻害し、COVID-19の病態に関連するウイルス感染依存性細胞融合や細胞死を抑制することを見出しました。
以上の成果は新型コロナウイルスの素早い感染拡大の機構やCOVID-19の複雑な病態の解明に繋がるだけでなく、重症化や後遺症などに対する治療法開発や新たな変異株の病原性予測にも役立つことが期待されます。
成果掲載誌 Metalloproteinase-dependent and TMPRSS2-independent cell surface entry pathway of SARS-CoV-2 requires the furin cleavage site and the S2 domain of spike protein
Mizuki Yamamoto, Jin Gohda, Ayako Kobayashi, Keiko Tomita, Youko Hirayama, Naohiko Koshikawa, Motoharu Seiki, Kentaro Semba, Tetsu Akiyama, Yasushi Kawaguchi, Jun-ichiro Inoue
mBio 13, e00519-22 (2022) doi: 10.1128/mbio.00519-22

HIV-1アクセサリータンパク質Vpr阻害剤の探索

利用者 東京大学
大学院農学生命科学研究科
間 陽子先生
内容 ヒト免疫不全ウイルス1型ウイルス(HIV-1)は、後天的ヒト免疫不全症候群(AIDS:エイズ)の原因ウイルスであり、感染者の細胞に遺伝子が組み込まれる性質を持つことから、未だ完全な治療法は確立されていません。
HIV-1のアクセサリータンパク質の一つであるVprは、G2期の細胞周期を停止させることで、マクロファージにおけるHIV-1の効率的な拡散に関係することが知られています。我々は、分裂酵母および培養細胞ベースのハイスループットスクリーニングを構築して、Vprを標的とする新しいHIV-1阻害剤をスクリーニングしました。
まず、HIV-1 Vprタンパク質を発現する分裂酵母を用いて、140,000の低分子化合物からVprの機能を阻害する可能性のある268の化合物を同定しました。次に、選択した化合物を培養細胞にテストし、高い細胞毒性を示す化合物を除外した後に画像ベースの細胞周期分析を行いました。フローサイトメトリーによる細胞周期解析の確認を行い、7つの化合物が培養細胞においてもVprによって誘発されたG2期細胞周期停止を阻害することが確認されました。さらに健常人ボランティアの血球を分離し、刺激誘導したヒト単球由来マクロファージ(MDM)を用いて、これら候補化合物の細胞毒性およびHIV-1の複製阻害効果を評価しました。その結果、最終的に3つの独立した構造化合物、VTD227、VTD232、およびVTD263がMDMにおけるHIV-1複製を阻害することを明らかにしました。また、VTD227はVprに直接結合できるのに対し、VTD232とVTD263は直接の結合を示さないことからVprの機能を間接的に阻害している可能性が示唆されました。
本研究成果は、3つの新しい化合物とその誘導体が抗HIV-1薬の新しい機序をもつ候補として、現在の抗レトロウイルス療法を改善できる可能性を示しています。
成果掲載誌 A novel class of HIV-1 inhibitors targeting the Vpr-induced G2-arrest in macrophages by new yeast- and cell-based high-throughput screening
Hirotaka Sato, Tomoyuki Murakami, Ryosuke Matsuura, Masako Abe, Seiji Matsuoka, Yoko Yashiroda, Minoru Yoshida, Hirofumi Akari, Yosuke Nagasawa, Masami Takei, Yoko Aida
Viruses 14(6), 1321 (2022) doi: 10.3390/v14061321

黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成を阻害する化合物

利用者 東京慈恵会医科大学
医学部
奥田賢一先生
内容 黄色ブドウ球菌はヒトの皮膚や鼻腔に常在する細菌であるが、ときに敗血症や創部感染などの重篤な感染症の原因菌となる。本菌は物質表面でバイオフィルムと呼ばれる集合体を形成することが知られており、カテーテル、ペースメーカー、人工関節等の医療用デバイス表面において本菌がバイオフィルムを形成することで引き起こされるバイオフィルム感染症が臨床で大きな問題となっている。バイオフィルムを形成した菌は高い薬剤抵抗性を示すため、抗菌薬による治療が困難となる。バイオフィルム感染症は患者へ多大な負担を与えるだけでなく、治療期間の延長や医療費の増加にもつながる問題であり、根本的な治療法・予防法の開発が急務である。
本研究では、黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成を阻害する化合物のスクリーニングを行い、新規バイオフィルム阻害剤JBD1を発見した。また、JBD1の作用メカニズムを詳細に解析し、黄色ブドウ球菌の細胞呼吸を活性化することでバイオフィルム形成を阻害することを明らかにした。加えて、JBD1には黄色ブドウ球菌に対する抗菌薬の効果を向上させる効果があることを見出した。これらの研究成果は、難治性のバイオフィルム感染症に対する新たな治療薬・予防薬の開発や、バイオフィルムが形成されにくい新規医療用素材の開発につながるものと期待される。
成果掲載誌 Small-molecule-induced activation of cellular respiration inhibits biofilm formation and triggers metabolic remodeling in Staphylococcus aureus
Ken-ichi Okuda, Satomi Yamada-Ueno, Yutaka Yoshii, Tetsuo Nagano, Takayoshi Okabe, Hirotatsu Kojima, Yoshimitsu Mizunoe, Yuki Kinjo
mBio, 13, e00845-22 (2022) doi: 10.1128/mbio.00845-22
化合物

小腸オルガノイドの薬剤評価における有用性

利用者 東京大学
大学院農学生命科学研究科
高橋 裕先生
内容 オルガノイドは臓器特異的な幹細胞およびその分化細胞が極性を持って分布する三次元構造体であり、臓器に近い応答、機能を有することから、in vitroで培養可能な臓器モデルと見なされている。しかし、従来の株化細胞に比べて、オルガノイドが実際により生理的なモデルであることを調べた研究例は少ない。
本研究では、ヒト小腸オルガノイドから作製した小腸上皮細胞と、従来のヒト小腸上皮モデルであるCaco-2細胞との比較の一環として、既存薬、既知薬理活性ライブラリーを用いて化合物応答性の違いを検証した。その結果、Caco-2細胞に選択的に細胞毒性を示す化合物として、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤などの抗がん剤が多く見出された。本結果は、Caco-2細胞が正常な小腸上皮細胞というよりはむしろがん細胞としての性質を反映することを示唆しており、ヒトにおける小腸毒性をより正確に予測するためには、Caco-2細胞ではなく小腸オルガノイドを用いたほうが良いと考えられた。
成果掲載誌 Organoid-derived intestinal epithelial cells are a suitable model for preclinical toxicology and pharmacokinetic studies
Yu Takahashi, Makoto Noguchi, Yu Inoue, Shintaro Sato, Makoto Shimizu, Hirotatsu Kojima, Takayoshi Okabe, Hiroshi Kiyono, Yoshio Yamauchi, Ryuichiro Sato
iScience 25, 104542 (2022) doi: 10.1016/j.isci.2022.104542

前立腺がん細胞のオートファジーを阻害し、抗がん剤効果を増強するAtg4B阻害剤の発見

利用者 岐阜大学
糖鎖生命コア研究所
鎌足雄司先生
内容 オートファジーは、細胞の恒常性を維持するために重要な機構の一つであるが、腫瘍におけるオートファジーは、異常タンパク質や異常ミトコンドリアの蓄積、その結果生じる酸化ストレス、DNA不安定化の亢進の抑制を介して腫瘍悪性化や抗がん剤耐性獲得に関与すると考えられている。そのため、オートファジー阻害剤は新規抗がん剤や抗がん剤耐性克服薬の開発に繋がる。オートファジー阻害剤としてPI3キナーゼ阻害剤とリソソーム阻害剤が汎用されているが、これらはオートファジー特異的阻害剤ではない。
今回、オートファジーに特徴的な現象であるオートファゴソーム形成に重要なAtg4Bの阻害剤を探索し、ライブラリーから強力なAtg4B阻害活性とオートファジー阻害活性を示す化合物を見出した。また、リード化合物とAtg4Bとのドッキングモデルをもとに構造最適化を行い、より強力かつ選択的なAtg4B阻害剤を得ることに成功した。得られたAtg4B阻害剤は前立腺がん細胞で誘導されるオートファジーを顕著に阻害し、前立腺がん治療薬の抗がん活性を増強した。
以上、新規Atg4B阻害剤は、既存阻害剤とは作用機序が異なる新規オートファジー阻害剤として、今後、オートファジーが関わるがんなどの疾患を標的とした創薬への応用展開が期待される。
成果掲載誌 Discovery and structure-based optimization of novel Atg4B inhibitors for the treatment of castration-resistant prostate cancer
Yudai Kudo, Satoshi Endo, Mei Fujita, Atsumi Ota, Yuji O. Kamatari, Yoshimasa Tanaka, Takeshi Ishikawa, Hayato Ikeda, Takuya Okada, Naoki Toyooka, Naohiro Fujimoto, Toshiyuki Matsunaga, Akira Ikari
J. Med. Chem. 65, 4878–4892 (2022) doi: 10.1021/acs.jmedchem.1c02113

オキシステロール結合タンパク質とその阻害剤の相互作用解析

利用者 国立感染症研究所
ウイルス第二部第二室
有田峰太郎先生
内容 オキシステロール結合タンパク質(Oxysterol-binding protein, OSBP)は、様々なウイルスの感染に必要とされる宿主因子として注目を集めている。OSBPはヒト細胞において必須であるためにノックアウト実験等が行えず、その機能については未解明な点が多く残されている。今回、OSBPのリガンド結合ドメインの構造を高エネルギー加速器研究機構・加藤龍一先生との共同研究により決定し、OSBP阻害剤T-00127-HEV2との相互作用に関与するアミノ酸残基を同定した。このアミノ酸残基に変異を入れたOSBPを細胞に発現させるとT-00127-HEV2の抗ウイルス活性が低下する。この現象を利用して、ウイルス感染におけるOSBPの機能に必要とされるアミノ酸残基の同定に成功した。この系を応用することで、謎の多いOSBPの機能解明が期待される。
成果掲載誌 Ligand recognition by the lipid transfer domain of human OSBP is important for enterovirus replication
Jun Kobayashi, Minetaro Arita, Shota Sakai, Hirotatsu Kojima, Miki Senda, Toshiya Senda, Kentaro Hanada, Ryuichi Kato
ACS Infect. Dis. 8, 1161−1170 (2022) doi: 10.1021/acsinfecdis.2c00108

CaMキナーゼホスファターゼ阻害剤の探索

利用者 広島大学
大学院統合生命科学研究科
石田敦彦先生
内容 CaMキナーゼホスファターゼ (CaMKP/PPM1F/POPX2) は、PPM ファミリーに属するSer/Thrプロテインホスファターゼである。CaMKP は、CaMキナーゼをはじめ、リン酸化によって制御される細胞内酵素やタンパク質の制御に関与していると考えられている。提供された化合物ライブラリーの大規模スクリーニングとそれに引き続いた追加検討により、没食子酸とそのアルキルエステルがCaMKPに特異性の高い新規な阻害剤として同定された。阻害機構を詳しく検討した結果、アルキル鎖長の比較的短い没食子酸アルキルエステルはCaMKPに特異的にカルボニル化を引き起こし、CaMKPを不活性化させることがわかった。同じ条件で、λ-phosphataseやCaMKPと同じファミリーであるPPM1Aを用いるとカルボニル化も不活性化も起こらなかった。このカルボニル化反応はシステアミンなどのSH化合物で用量依存的に阻害され、それに伴い没食子酸エチルによるCaMKP阻害も減少した。このカルボニル化には、没食子酸のピロガロール構造のOH基が必須であった。このCaMKPのカルボニル化反応は、Mn2+、Cu2+、Co2+、Fe2+などの二価の陽イオンを必須とし、リン酸化ペプチド基質の添加により著しく促進された。CaMKPの細胞内基質と考えられるCaMキナーゼIαを一過性に発現する乳がん細胞株MDA-MB-231細胞を没食子酸エチルで処理すると、CaMキナーゼIのリン酸化の顕著な促進が観察され、没食子酸エチルが細胞内に侵入してCaMKPを不活性化することが示唆された。以上の結果から、CaMKPは没食子酸エチルなどある種の没食子酸アルキルエステルと2価の金属イオンとのインキュベーションにより、その特定のアミノ酸残基がカルボニル化され、CaMKPに特異的な不活性化が起こるという仮説が強く支持された。没食子酸アルキルエステルは、植物由来の食品にも多く含まれ、また食品添加物としても広く使用されている。近年CaMKPの活性亢進により、がんの転移浸潤が促進されたり、うつ病が悪化したりする可能性が指摘されているので、本研究の成果は、これらの疾患を標的にした食餌療法の可能性をも示唆している。
成果掲載誌 Identification of novel chemical compounds targeting filovirus VP40-mediated particle production
Kazutoshi Akizuki, Shun Ishikawa, Rika Obatake, Hana Ozaki, Nao Shimoda, Tatsuo Nehira, Takeshi Yamazaki, Tomoya Kinumi, Jin Osawa, Noriyuki Sueyoshi, Isamu Kameshita, Yasushi Shigeri, Atsuhiko Ishida
Arch. Biochem. Biophys. 720, 109170 (2022) doi: 10.1016/j.abb.2022.109170

カルシウム/マンガンイオンポンプSPCA1阻害剤の探索

利用者 杏林大学
医学部
山本幸子先生
内容 ゴルジ体に局在するCa2+/Mn2+ポンプSPCAは、細胞質からCa2+とMn2+をゴルジ体内に輸送するイオンポンプである。このポンプの生理機能は、ゴルジ体へのCa2+の貯蔵、細胞毒性の強いMn2+のゴルジ体内への隔離、輸送小胞へのCa2+の供給など多岐にわたる事が、遺伝子ノックダウン法を用いて示されてきた。しかしながら、細胞内には機能の重複するイオンポンプが複数存在しており、SPCA単独の生理機能が十分に明らかになっていない。
一般的に特異的阻害剤は、ある分子の働きを解析するために、有用なツールとして用いられている。SPCAには、このような阻害剤が存在しないことから、SPCAの生理機能の解析に利用可能な阻害剤の探索を行った。
創薬機構の化合物サンプルを用いて探索した結果、SPCAのアイソフォームの一つ、SPCA1を特異的に阻害するチアゾール誘導体を見出した。この誘導体は、SPCA1の酵素活性を特異的に阻害し、類縁のイオンポンプの酵素活性をほとんど阻害しない。SPCA1阻害活性を有するチアゾール誘導体が、細胞内に発現するSPCA1の働きの阻害を、哺乳類培養細胞を用いて評価した結果、SPCA1の抑制によって生じたと推定されるゴルジ体の断片化とCa2+貯蔵庫からのCa2+漏えいが認められた。今後さらに詳しい解析をすすめ、本誘導体がSPCA1の生理機能の解析に利用可能な阻害剤であるか、あるいはそのリード化合物となり得るのかを評価したい。
成果掲載誌 Inhibition of the human secretory pathway Ca2+, Mn2+–ATPase1a by 1,3-thiazole derivatives
Sachiko Yamamoto-Hijikata, Kei Suga, Haruo Homareda, Makoto Ushimaru
Biochem. Biophys. Res. Commun. 614, 56-62 (2022) doi: 10.1016/j.bbrc.2022.05.010
化合物

エボラウイルス様粒子の産生阻害剤探索

利用者 長崎大学
感染症共同研究拠点/熱帯医学研究所
浦田秀造先生
内容 エボラウイルスの粒子産生において中心的な役割を果たすVP40タンパク質の立体構造情報をもとに、インシリコスクリーニングを行い、VP40タンパク質のウイルス様粒子産生機能を阻害する化合物を同定した。
成果掲載誌 Identification of novel chemical compounds targeting filovirus VP40-mediated particle production
Shuzo Urata, Olaposi Idowu Omotuyi, Ayako Izumisawa, Takeshi Ishikawa, Satoshi Mizuta, Yasuteru Sakurai, Tatsuaki Mizutani, Hiroshi Ueda, Yoshimasa Tanaka, Jiro Yasuda
Antiviral Res. 199, 105267 (2022) doi: 10.1016/j.antiviral.2022.105267

変形性関節症治療剤の探索

利用者 岐阜大学
大学院医学系研究科
小川寛恭先生
内容 変形性関節症の治療法は対症療法または手術治療のみで病態修飾性治療薬は未だ開発されていない。本疾患の病態に関わるMMP13の発現を阻害する薬剤探索を行った。同定された化合物は変型性関節症マウスモデルで軟骨変性を抑制し、同疾患の治療薬の候補になることが明らかになった。
成果掲載誌 Colchicine protects against cartilage degeneration by inhibiting MMP13 expression via PLC-γ1 phosphorylation
Takeuchi K, Ogawa H, Kuramitsu N, Akaike K, Goto A, Aoki H, Lassar A, Suehara Y, Hara A, Matsumoto K, Akiyama H
Osteoarthritis Cartilage 29(11), 1564–1574 (2021) doi: 10.1016/j.joca.2021.08.001

P-cadherinホモダイマー形成阻害剤の物理化学的スクリーニング

利用者 東京大学
医科学研究所
長門石 曉先生
内容 細胞接着因子P-cadherinのホモダイマー形成を阻害する低分子化合物をSPRを基盤とした物理化学スクリーニングにより取得した。より阻害活性の高い化合物の設計にも成功し、本化合物はダイマー形成速度を低下させる阻害機構であることが明らかとなった。
成果掲載誌 Regulation of cadherin dimerization by chemical fragments as a trigger to inhibit cell adhesion
Akinobu Senoo, Sho Ito, Satoru Nagatoishi, Yutaro Saito, Go Ueno, Daisuke Kuroda, Kouhei Yoshida, Takumi Tashima, Shota Kudo, Shinsuke Sando, Kouhei Tsumoto
Commun. Biol. 4, 1041 (2021) doi: 10.1038/s42003-021-02575-3
化合物

スパコンを用いたDNA維持メチル化に関わるUHRF1の阻害剤探索

利用者 横浜市立大学
生命医科学研究科
有田恭平先生
内容 ヒトの体を構成する約270種類の細胞では、DNAに起こる化学修飾であるメチル化 (DNAメチル化) のパターンが異なっており、これにより細胞は固有の形と働きを持つ。DNAメチル化は遺伝子の発現を抑制する働きを持つので、細胞によって使われる遺伝子を決めている。細胞が一旦獲得したDNAメチル化パターンは、ヒトの生涯に渡って次世代の細胞に正確に受け継がれていく。これによって、皮膚の細胞は皮膚、肝臓の細胞は肝臓の細胞であり続けることができる。したがって、細胞が増殖する時にDNAメチル化パターンが次の世代の細胞に正確に受け継がれることが、我々の身体を正常に維持するために必要である。これをDNA維持メチル化と言う。DNA維持メチル化が正常に行われないと、ゲノムの不安定化やがんを抑制する遺伝子の働きがおかしくなり、細胞ががん化する。実際に、多くのがん細胞ではDNAメチル化パターンの異常が見られる。DNA維持メチル化に必須のタンパク質であるUHRF1は、様々ながん細胞で過剰に発現している。その結果、がんを抑制する遺伝子が働かなくなったりしてがん細胞が異常増殖することが報告されている。このことから、がん細胞で過剰に存在するUHRF1の機能を抑えることができる薬剤は、がんの治療や改善につながると期待される。
今回私たちはUHRF1の中にあるTTD (以下TTDドメイン) と呼ばれる領域に着目した。TTDドメインはDNA複製に関与するDNAリガーゼ1 (以下LIG1) と結合し、この結合がDNA維持メチル化に重要であることが知られている。UHRF1が過剰に発現したがん細胞では、UHRF1のTTDドメインとLIG1の結合が頻繁に起こってしまうことが考えられ、それを防ぐことががんの改善につながると考えた。そこで、UHRF1のTTDドメインに結合して、LIG1との結合を防ぐ化合物を発見することが、がんの治療薬開発に向けて重要である。
本研究では、分子動力学シミュレーションを中心とした計算科学とタンパク質の立体構造を解析する構造生物学を組み合わせて、UHRF1のTTDドメインに結合する化合物を効率的に発見した。20万種類の化合物が含まれる創薬機構の化合物ライブラリから、UHRF1のTTDドメインに結合する候補化合物をスーパーコンピュータを用いた計算で130個まで絞り込み、生化学的な実験で130個の候補化合物からUHRF1のTTDドメインに強く結合する化合物を1種類 (5A-DMP) 同定した。この5A-DMPが実際にUHRF1のTTDドメインに結合している様子をX線結晶構造解析で可視化し、阻害する様子を明らかにした。そして、5A-DMPがUHRF1とLIG1の結合を阻害する働きを持つことを生化学実験とカエルの卵の抽出液を用いた無細胞系での実験で明らかにした。
成果掲載誌 Structure-based screening combined with computational and biochemical analyses identified the inhibitor targeting the binding of DNA Ligase 1 to UHRF1
Satomi Kori, Yuki Shibahashi, Toru Ekimoto, Atsuya Nishiyama, Sae Yoshimi, Kosuke Yamaguchi, Satoru Nagatoishi, Masateru Ohta, Kouhei Tsumoto, Makoto Nakanishi, Pierre-Antoine Defossez, Mitsunori Ikeguchi, Kyohei Arita
Bioorg. Med. Chem. 52, 116500 (2021) doi: 10.1016/j.bmc.2021.116500
化合物

パーキンソン病発症に関わる未知のミトコンドリアストレス応答経路の発見

利用者 千葉大学
大学院理学研究院
板倉英祐先生
内容 Validated Compound Library約3000個の化合物スクリーニングからミトコンドリアストレス関連薬剤を探索したところ、25個のミトコンドリアストレス誘導化合物の同定に成功した。これらのうち約20個は既知のミトコンドリアストレス応答作用を示した。一方で5個の化合物はParkin遺伝子が関連するこれまで知られていないストレス応答作用を示した。これらの結果から、パーキンソン病の発症には、未知のストレス応答経路が関連していることが考えられた。
成果掲載誌 Labeling and measuring stressed mitochondria using a PINK1-based ratiometric fluorescent sensor
Rie Uesugi, Shunsuke Ishii, Akira Matsuura, Eisuke Itakura
J. Biol. Chem. 297, 101279 (2021) doi: 10.1016/j.jbc.2021.101279

肝線維症治療薬の探索

利用者 東京大学
定量生命科学研究所
木戸丈友先生
内容 肝線維症は肝臓に大量に線維が蓄積する病態で、線維症が進行すると肝硬変や肝がんにつながるため、線維症を治療することは極めて重要である。線維化した肝臓においては、肝星細胞が “静止状態”から“活性化状態”へと移行し、線維を過剰に産生して、線維化の進行に大きく関与することが知られている。しかしながら、肝星細胞の活性化プロセスを評価するモデルは存在せず、線維症の有効な治療薬の開発が遅れている。今回、ヒトiPS細胞から静止期の肝星細胞を作製する技術を確立し、それらを用いた肝線維症治療薬のスクリーニングシステムを開発した。これにより、ヒトiPS細胞から“静止状態”の肝星細胞を調製することができ、培養によって“活性化状態”へ誘導することが可能となった。また、“静止状態”から“活性化状態”への性質の変化を、蛍光量を指標に簡便かつ定量的に評価する技術を開発し、この技術を用いて既存薬の中から抗線維症活性を示す化合物の同定に成功した。
成果掲載誌 Development of human iPSC-derived quiescent hepatic stellate cell-like cells for drug discovery and in vitro disease modeling
Yuta Koui, Misao Himeno, Yusuke Mori, Yasuhiro Nakano, Eiko Saijou, Naoki Tanimizu, Yoshiko Kamiya, Hiroko Anzai, Natsuki Maeda, Luyao Wang, Tadanori Yamada, Yasuyuki Sakai, Ryuichiro Nakato, Atsushi Miyajima, Taketomo Kido
Stem Cell Rep. 16, 3050–3063 (2021) doi: 10.1016/j.stemcr.2021.11.002

機械学習モデルによる抗真菌剤の標的探索

利用者 理化学研究所
環境資源科学研究センター
Charles Boone先生
内容 ヒトの健康を脅かす真菌の中でもCandida albicansはメジャーな病原真菌の一つである。真菌の必須遺伝子の系統的な解析は、抗真菌剤の標的を見つけるための強力な手段である。本論文では、C. albicansのゲノムワイドな遺伝子必須性の予測を行う機械学習モデルを構築し、それをもとに、機能ゲノミクスを解析できるリソースとして866遺伝子分の変異体コレクション(GRACEコレクション)を新たに作製した。このモデルとケモゲノミクス解析により、キネトコア機能、ミトコンドリアインテグリティ、翻訳に関わる未知の3つの必須遺伝子の機能を明らかにした。また、必須遺伝子を標的とする有効な治療薬を探索するため、東京大学創薬機構より提供された9600種の低分子化合物から成るCore Libraryをスクリーニングし、C. albicansに対して強力な抗真菌活性を示し、かつ薬剤耐性を示すCandida aurisやCandida glabrataに対しても中程度の活性を示すNP-BTAを見出し、ケモゲノミクス解析により、NP-BTAの標的がグルタミニルtRNA合成酵素Gln4であることを明らかにした。
成果掲載誌 Leveraging machine learning essentiality predictions and chemogenomic interactions to identify antifungal targets
Ci Fu, Xiang Zhang, Amanda O. Veri, Kali R. Iyer, Emma Lash, Alice Xue, Huijuan Yan, Nicole M. Revie, Cassandra Wong, Zhen-Yuan Lin, Elizabeth J. Polvi, Sean D. Liston, Benjamin VanderSluis, Jing Hou, Yoko Yashiroda, Anne-Claude Gingras, Charles Boone, Teresa R. O’Meara, Matthew J. O’Meara, Suzanne Noble, Nicole Robbins, Chad L. Myers, Leah E. Cowen
Nat. Commumn. 12, 6497 (2021) doi: 10.1038/s41467-021-26850-3
化合物

新規RNA合成阻害剤の発見

利用者 徳島大学
大学院医歯薬学研究部
森田明典先生
内容 RNA合成阻害剤やタンパク質合成阻害剤は、メカニズムが不明な生命現象が転写や翻訳を必要とするかどうかを調べるのに有用であるが、多くのRNA合成阻害剤が有害なp53応答を惹起してしまうため、細胞死誘導過程におけるRNA合成依存性を検証することは困難であった。本研究では、9600化合物コアライブラリーから、ヒトT細胞白血病細胞株MOLT-4細胞における放射線誘発p53依存性アポトーシス抑制効果を指標として選抜された細胞死制御剤STK160830の作用機序を明らかにした。STK160830の抗アポトーシス効果は、p53野生型のMOLT-4細胞やマウス胸腺細胞において高い抗アポトーシス効果を示したが、p53ノックダウン細胞およびp53変異/欠失細胞では顕著な効果を示さないため、STK160830はp53機能を抑制していることが示唆された。また、STK160830は、RNA合成阻害剤として知られるアクチノマイシンDの作用と類似したmRNA発現の減少を示したが、p53の細胞内蓄積を指標にDNA損傷応答を検討したところ、アクチノマイシンDの単独処理でp53の蓄積が誘導された一方、STK160830は単独処理によってp53の蓄積を誘導しなかった。また、DNA融解曲線分析においてもアクチノマイシンDはDNAの融解温度を上昇させた一方、STK160830はDNAの融解温度を変化させなかったことから、STK160830にはDNAと相互作用せずにRNA合成を阻害していると考えられた。
以上から、STK160830は、アクチノマイシンDとは異なる機構で作用する低毒性の新規RNA合成阻害剤として、p53をはじめとする様々な細胞死誘導分子の転写依存性を検討するための重要なツールとなることが期待される。
成果掲載誌 A novel RNA synthesis inhibitor, STK160830, has negligible DNA-intercalating activity for triggering a p53 response, and can inhibit p53-dependent apoptosis
kinori Morita, Shintaro Ochi, Hidetoshi Satoh, Shohei Ujita, Yosuke Matsushita, Kasumi Tada, Mihiro Toyoda, Yuichi Nishiyama, Kosuke Mizuno, Yuichi Deguchi, Keiji Suzuki, Yoshimasa Tanaka, Hiroshi Ueda, Toshiya Inaba, Yoshio Hosoi, Shin Aoki
Life 11, 1087 (2021) doi: 10.3390/life11101087
化合物

アトピー性皮膚炎の痒み物質の産生を抑制する化合物探索

利用者 九州大学
生体防御医学研究所
宇留野武人先生
内容 IL-31は、アトピー性皮膚炎発症に重要な痒み物質で、主にヘルパーT細胞から産生される。これまでに、DOCK8分子がないヒトやマウスにおいてIL-31の産生が亢進し、重篤なアトピー性皮膚炎を自然発症することに着目し、そのヘルパーT細胞で発現する遺伝子を解析することで、IL-31の産生にEPAS1という転写因子が重要であることを明らかにした。そこで本研究では、EPAS1-IL-31経路を標的とした化合物スクリーニングを実施し、DOCK8欠損マウスのヘルパーT細胞におけるIL-31産生を選択的に抑制する化合物として、IPHBAを発見した。IPHBAは低酸素応答や他のサイトカインの産生には影響を与えないが、IPHBAをマウスに経口投与すると、IL-31を産生するヘルパーT細胞の移入による引っ掻き行動が抑制された。同様のIL-31選択的な抑制効果は、アトピー性皮膚炎患者さん由来のヘルパーT細胞においても認められた。さらに合成展開の結果、IPHBAより薬効の強い化合物の開発にも成功している。
成果掲載誌 Targeted inhibition of EPAS1-driven IL-31 production by a small-molecule compound
Yasuhisa Kamikaseda, Takehito Uruno, Kazufumi Kunimura, Akihito Harada, Kuniko Saiki, Kounosuke Oisaki, Daiji Sakata, Takeshi Nakahara, Makiko Kido-Nakahara, Motomu Kanai, Seiji Nakamura, Yasuyuki Ohkawa, Masutaka Furue, Yoshinori Fukui
J. Allergy Clin. Immunol. 148, 633–638 (2021) DOI: 10.1016/j.jaci.2021.03.029
化合物

膵癌治療を目指した膵星細胞活性化抑制剤の探索

利用者 九州大学病院
仲田興平先生
内容 膵星細胞(Pancreatic stellate cell; PSCs)は、膵癌の線維性間質中に存在し、癌細胞の活性化や化学療法抵抗性を促進している。そのため、PSCsの活性化を抑制し、癌間質相互作用を抑制することは、膵癌に対する有望な治療戦略と考えられる。本研究ではPSCsの活性化を抑制し、膵癌増殖を抑制する新たな化合物を同定するための新しいスクリーニングシステムを構築し、化合物スクリーニングを行った。創薬機構のvalidated化合物ライブラリーの中からPSCsの活性化を抑制し、マウスモデルで膵癌の増殖を抑制する化合物を同定した。
成果掲載誌 New high-throughput screening detects compounds that suppress pancreatic stellate cell activation and attenuate pancreatic cancer growth
Akiko Sagara, Kohei Nakata, Tomohiro Yamashita, Weiyu Guan, Pingshan Zhong, Sokichi Matsumoto, Sho Endo, Chika Iwamoto, Koji Shindo, Naoki Ikenaga, Taiki Moriyama, Kenoki Ohuchida, Kazuhiro Mizumoto, Masafumi Nakamura
Pancreatology 21, 1071–1080 (2021) DOI: 10.1016/j.pan.2021.04.002
化合物

FHIT阻害剤の探索

利用者 名古屋市立大学
薬学部
川口充康先生
内容 癌の早期診断と完治の可能性を高めるためには、前癌病変で発現が変化しているマーカー遺伝子が望まれ、癌抑制遺伝子FHITはその候補の一つである。この遺伝子の産物であるFHITタンパク質は、ユニークなジヌクレオシド三リン酸ヒドロラーゼ(AP3Aase)活性を有しており、本研究では、この活性を利用した一連のFHIT蛍光プローブを設計・合成し、FHIT阻害剤のスクリーニングアッセイに応用した。見つかったヒット化合物を構造的に改良することで、ヒドロキサム酸構造を有する強力なFHIT阻害剤を得ることができた。これらの阻害剤は、カスパーゼの活性化を介してFHITを発現している癌のアポトーシスを誘導する。一方、FHITの発現が低いがん細胞ではapoptosisの誘導活性は低いことが分かった。今回の結果は、AP3Aase活性FHIT阻害剤であれ、FHITのアゴニストであれ、FHITの結合剤は有望な抗がん剤となる可能性があることを示している。
成果掲載誌 Synthesis of fluorescence probes targeting tumor-suppressor protein FHIT and identification of apoptosis-inducing FHIT inhibitors
Mitsuyasu Kawaguchi, Eriko Sekimoto, Yuhei Ohta, Naoya Ieda, Takashi Murakami, Hidehiko Nakagawa
J. Med. Chem. 64, 9567–9576 (2021) doi: 10.1021/acs.jmedchem.1c00874
化合物

Sirtuinの脱アシル化阻害剤の探索

利用者 名古屋市立大学
薬学部
川口充康先生
内容 エピジェネティック制御は近年大きな注目を集めている遺伝子発現及び細胞機能制御機構の1つであり、生命維持の基本的機構に関わると共に多くの疾患に関連する。本研究では、エピジェネティック制御酵素の中でも特にSirtuin (SIRT) に着目した研究を行った。
SIRTはタンパク質リシン側鎖に生じたエピジェネティック修飾の1つであるアセチル化修飾を加水分解しアミノ基に変換する活性を有する酵素として報告されたが、アイソザイムのいくつかは脱アセチル化のみならず、脱アシル化 (脱ミリストイル化や脱スクシニル化など) を触媒することが近年報告された。特に長鎖脂肪酸由来のアシル基が結合したリシン側鎖の加水分解を行うことが報告され (しかも反応性はこちらの方が高い)、アセチル化とアシル化の機能の違いが注目されている。そこで、これまでに開発したSIRT活性検出プローブSFP3に着目しアシル化修飾をイメージングできるプローブの開発を目指し、改良を行った。まず、SIRT2選択的なin vitro用プローブを設計・合成した。すでに開発したSIRT1/2/6全てに反応性を持つプローブSFP3のペプチド配列部を精査し、SIRT2に高い選択性を有する配列を選別し、SIRT2選択的in vitro用蛍光プローブの開発に成功した。また、消光団構造を精査することによりSIRT3に特異性の高い蛍光プローブを取得することに成功するとともに、SIRT6に対して高い反応性を示すプローブの設計指針を得た。
改良したプローブの1つを用い、SIRTの脱アシル化(長鎖脂肪酸アシル基)活性の阻害剤スクリーニングを行い、脱アシル化阻害活性が優位となる阻害剤候補を見出した。
成果掲載誌 A Set of Highly Sensitive Sirtuin Fluorescence Probes for Screening Small-Molecular Sirtuin Defatty-Acylase Inhibitors
Yuya Nakajima, Mitsuyasu Kawaguchi, Naoya Ieda, Hidehiko Nakagawa
ACS Med. Chem. Lett. 12, 617−624 (2021) doi: 10.1021/acsmedchemlett.1c00010
化合物

線虫精子活性化剤の探索

利用者 摂南大学
理工学部
西村 仁先生
内容 精子の活性化は、精子が授精能を獲得する上で必須であるが、そのメカニズムには不明な点が多い。線虫(Caenorhabditis elegans)は、ゲノム編集技術などの遺伝学的ツールが豊富で飼育・維持が容易であり、他の生物種の遺伝子と約40%の相同性があるため、生命科学研究で多用されるモデル生物である。実際、線虫精子の活性化における反応プロセスはマウス精子の活性化と類似しているため、これらの生物種間で共通の分子基盤が存在することが予想される。そこで、in vitroで精子を活性化できる線虫を使って化合物のスクリーニングを行い、線虫精子を活性化するDDI-6を得た。さらに、DDI-6はマウス精子の活性化(先体反応)も惹起した。これらの結果は、DDI-6と結合する分子が線虫とマウス精子に共通して存在する可能性を示しており、進化的に保存された精子活性化機構の解明に繋がると思われた。
成果掲載誌 Identification and Synthesis of DDI-6, a Quinolinol Analog Capable of Activating Both Caenorhabditis elegans and Mouse Spermatozoa
Yukiko Karuo, Riona Shiraki, Ayaka Yoshida, Ryo Tsunokawa, Mayuko Nakahara-Yamada, Atsushi Tarui, Kazuyuki Sato, Kentaro Kawai, Masaaki Omote, Hitoshi Nishimura
Chem. Pharm. Bull. 69, 557-563 (2021) doi: 10.1248/cpb.c21-00127
化合物

鎮痛効果に繋がるP2X7受容体阻害薬の探索

利用者 九州大学
大学院薬学研究院
山下智大先生
内容 神経障害性疼痛は難治性の慢性疼痛疾患であり、多くの患者さんが苦しんでいるが、未だ有効な治療法が確立されていないのが現状である。一方で、P2X7受容体(細胞外ATPで活性化するイオンチャネル)は神経障害性疼痛や慢性炎症に関与することから、有望な創薬標的分子であるが、未だP2X7受容体を標的とした薬物は上市には至っていない。そこで既承認薬の中からP2X7受容体の機能を阻害する化合物の探索を試みたところ、既知薬理活性化合物ライブラリー1,979化合物の中から、ラットP2X7受容体の機能を強く阻害する3種類の既承認薬(尿酸排泄促進薬のベンズブロマロン、喘息治療薬のザフィルルカストそして高血圧治療薬のシルニジピン)を見出した。これら既承認薬はヒトP2X7受容体の機能に対して濃度依存的な阻害作用を示し、またラット初代培養ミクログリア細胞において高濃度ATP刺激により誘発するカルシウム流入や炎症性サイトカインIL-1βの放出を有意に抑制した。中でも最も強力に抑制作用を発揮したシルニジピンは、神経障害性疼痛病態モデルラットへの脊髄腔内投与により有意な鎮痛効果が認められた。
成果掲載誌 New Inhibitory Effects of Cilnidipine on Microglial P2X7 Receptors and IL-1β Release: An Involvement in its Alleviating Effect on Neuropathic Pain
Tomohiro Yamashita, Sawako Kamikaseda, Aya Tanaka, Hidetoshi Tozaki-Saitoh, Jose M. M. Caaveiro, Kazuhide Inoue, Makoto Tsuda
Cells 10(2), 434 (2021) doi: 10.3390/cells100204345

シャーガス病の創薬標的研究

利用者 理化学研究所
生命機能科学研究センター
田仲昭子先生
内容 ユビキノンはシャーガス病を引き起こす原虫において、重要な創薬標的であることが予測される。これまでの研究で私たちは細胞内のキノン成分分析を指標に創薬機構の化合物をスクリーニングし、ヒトユビキノン合成酵素の阻害剤を得ている。今回このうちの1つの化合物の構造類似化合物がシャーガス病の原因原虫を殺すことを見出し、その反応メカニズムの解析とともに報告した。
成果掲載誌 The ubiquinone synthesis pathway is a promising drug target for Chagas disease
Takeshi Nara, Yukari Nakagawa, Keiko Tsuganezawa, Hitomi Yuki, Katsuhiko Sekimata, Hiroo Koyama, Naoko Ogawa, Teruki Honma, Mikako Shirouzu, Takehiro Fukami, Yuichi Matsuo, Daniel Ken Inaoka, Kiyoshi Kita, Akiko Tanaka
PLoS ONE 16(2), e0243855 (2021) doi: 10.1371/journal.pone.0243855

変異型アクチビン受容体様キナーゼ2(ALK2)阻害剤の合成展開

利用者 理化学研究所
創薬化学基盤ユニット
小山裕雄先生
内容 進行性骨化性線維異形成症は、小児期から全身の筋肉やその周囲の膜、腱、靭帯などが進行性に骨化する疾患である。また、びまん性内在性橋神経膠腫は、小児の脳幹に広範囲に発生する悪性腫瘍であり、致死率は100%に近い。これらの疾患に有効な治療方法は確立されていないが、共通する病因の一つにALK2の変異が報告されている。骨形成タンパク質と結合した変異ALK2は、高度にリン酸化し、シグナルの異常亢進により、骨化及び癌細胞の増殖を促すことが示唆されている。そこで、我々は変異ALK2を治療標的と選定し、変異ALK2の異常なシグナルを抑制する化合物の探索を行った。創薬機構の化合物ライブラリーからヒット化合物を見出し、構造活性相関研究により、新規な骨格を有する縮環ピラゾール系化合物を変異ALK2阻害剤として同定した。
成果掲載誌 Novel bicyclic pyrazoles as potent ALK2 (R206H) inhibitors for the treatment of fibrodysplasia ossificans progressiva
Hirofumi Yamamoto, Naoki Sakai, Satoshi Ohte, Tomohiro Sato, Katsuhiko Sekimata, Takehisa Matsumoto, Kana Nakamura, Hisami Watanabe, Chiemi Mishima-Tsumagari, Akiko Tanaka, Yoshinobu Hashizume, Teruki Honma, Takenobu Katagiri, Kohei Miyazono, Hiroshi Tomoda, Mikako Shirouzu, Hiroo Koyama
Bioorg Med Chem Lett 38, 127858 (2021) doi: 10.1016/j.bmcl.2021.127858

植物の生育に関わるSnRK2の阻害剤探索

利用者 東京農工大学
生物システム応用科学府
梅澤泰史先生
内容 植物が乾燥ストレスに晒されたときに活性化されるタンパク質リン酸化酵素SnRK2を標的とした化合物スクリーニングを行った。16,000化合物の中からSnRK2の活性を阻害する化合物を選抜し、植物培養細胞を用いた試験によってその効果を検証した。SnRK2の活性化は植物の生育阻害につながるため、今回選抜された化合物は植物の成長促進剤等への応用が見込まれる。
成果掲載誌 Identification of novel compounds that inhibit SnRK2 kinase activity by high-throughput screening
Shoko Matsuoka, Karin Sato, Riyo Maruki-Imamura, Yoshiteru Noutoshi, Takayoshi Okabe, Hirotatsu Kojima, Taishi Umezawa
Biochem. Biophys. Res. Commun. 537, 57-63 (2021) doi: 10.1016/j.bbrc.2020.12.046

胆管がん幹細胞を維持するBEX2発現を抑制する化合物探索

利用者 宮城県立がんセンター研究所
がん幹細胞研究部
玉井恵一先生
内容 胆管がんは現在でも有効な治療法に乏しい難治性がんである。本研究では、私たちが見いだした胆管がんにおける静止期がん幹細胞維持に必要な分子BEX2に着目した。9600 core libraryを用いて、BEX2タンパク発現を低下させる低分子化合物をスクリーニングした結果、化合物2種を同定した。そのうち、1,3-Benzenediol, 4-[4-(4-methoxyphenyl)-1H-pyrazol-3-yl]は、胆管癌細胞株に用いると静止期細胞を減少させ抗癌剤感受性を増加させることから、BEX2発現を低下させることによって静止期がん幹細胞を非がん幹細胞に変換できる化合物だと考えられた。今後、胆管がん幹細胞を標的とする創薬につながることが期待される。
成果掲載誌 Discovery of a chemical compound that suppresses expression of BEX2, a dormant cancer stem cell-related protein
Satoshi Saijoh, Mao Nakamura-Shima, Rie Shibuya-Takahashi, Ryo Ito, Akira Sugawara, Tomoko Yamazaki, Takayuki Imai, Yukinori Asada, Kazuto Matsuura, Wataru Iwai, Yuta Wakui, Makoto Abue, Sadafumi Kawamura, Yu Katayose, Haruna Fujimori, Mai Mochizuki, Jun Yasuda, Kazunori Yamaguchi, Kazuo Sugamura, Kennichi Satoh, Yukio Katori, Keiichi Tamai
Biochem. Biophys. Res. Commun. 537, 132-139 (2021) doi: 10.1016/j.bbrc.2020.11.022
化合物  

Cisplatin耐性がん細胞に対する耐性解除剤の探索

利用者 東京工科大学
応用生物学部
今村 亨先生
内容 抗がん剤Cisplatinに対する耐性がん細胞において高発現する遺伝子がfibroblast growth factor 13 (FGF13)であることを利用し、既存薬リポジショニングスクリーニングを実施した。その結果、鎮咳剤の承認薬であるCloperastineが耐性を獲得したがん細胞を選択的かつ強力に傷害することを発見した。
成果掲載誌 Histamine H1 receptor antagonists selectively kill cisplatin-resistant human cancer cells
Nobuki Matsumoto, Miku Ebihara, Shiori Oishi, Yuku Fujimoto, Tomoko Okada, Toru Imamura
Sci. Rep. 11(1), 1492 (2021) doi: 10.1038/s41598-021-81077-y

アルドステロン合成酵素CYP11B2発現抑制剤の探索

利用者 東北大学
大学院医学系研究科
菅原 明先生
内容 アルドステロン合成酵素CYP11B2は生体内のミネラル調節に必要な酵素であるが、過剰に発現すると高血圧症を引き起こすことが知られている。今回、ゲノム編集技術を用いて内在性CYP11B2遺伝子の発現量をモニターできる実験系を構築し、化合物スクリーニングを行った。創薬機構のvalidated化合物ライブラリーの中からCYP11B2の発現を抑制する化合物を同定した。
成果掲載誌 The establishment of a novel high-throughput screening system using RNA-guided genome editing to identify chemicals that suppress aldosterone synthase expression
Ryo Ito, Masanobu Morita, Taichi Nakano, Ikuko Sato, Atsushi Yokoyama, Akira Sugawara
Biochem. Biophys. Res. Commun. 534, 672-679 (2021) doi: 10.1016/j.bbrc.2020.11.020

線虫の寿命を延ばす薬剤の探索

利用者 大阪市立大学
大学院生活科学研究科
中台枝里子先生
内容 ミトコンドリアUPRの活性化により寿命が延長することが線虫C.elegansやマウスを用いた遺伝学的研究により明らかとなってきた。本研究は、線虫のミトコンドリアUPRを活性化する化合物をスクリーニングし、寿命延長や抗老化効果の評価を行うことで、ミトコンドリアUPRを介して寿命延長をもたらす新規化合物を同定することを目的として行った。その結果、特許切れ医薬品化合物ライブラリから、ミトコンドリアUPRを活性化するものとして4種類の化合物が選別された。高次アッセイ(生存分析)の結果、利尿降圧薬であるmetolazoneが線虫の寿命を延長することが明らかとなった。
成果掲載誌 Metolazone upregulates mitochondrial chaperones and extends lifespan in Caenorhabditis elegans
Ai Ito, Quichi Zhao, Yoichiro Tanaka, Masumi Yasui, Rina Katayama, Simo Sun, Yoshihiko Tanimoto, Yoshikazu Nishikawa, Eriko Kage-Nakadai
Biogerontology 22, 119–131 (2021) doi: 10.1007/s10522-020-09907-6

細胞内の鉄量制御剤の探索

利用者 岐阜薬科大学
薬学部
平山 祐先生
内容 体内では鉄が不足しても過剰になっても不調をきたす。細胞レベルにおいても鉄の取込は厳密に制御されており、その制御機構が破綻すると、細胞損傷や細胞死につながることがわかっている。我々のグループでは、細胞内における鉄量の変化を簡易にかつ高精度に検知できる蛍光性化合物を開発し、これを使って細胞内の鉄量変化をもたらす化合物のスクリーニングを実施した。その結果、3399化合物からなるvalidated libraryよりlomofunginという化合物が細胞内の鉄量を増加させる働きがあることを見出した。鉄不足・鉄過剰に起因するような病態に対する創薬の第一歩となる成果である。
成果掲載誌 High-Throughput Screening for the Discovery of Iron Homeostasis Modulators Using an Extremely Sensitive Fluorescent Probe
Tasuku Hirayama, Masato Niwa, Shusaku Hirosawa, Hideko Nagasawa
ACS Sens. 5(9), 2950-2958 (2020) doi: 10.1021/acssensors.0c01445

RelA阻害剤の探索

利用者 広島大学
大学院医系科学研究科
田原栄俊先生
内容 NF-kBは5つのサブユニット(RelA, RelB, cRel, p50, p52)からなる転写因子であり、今までに多くのがん促進的な役割を持つことが報告されている。その中でもRelAは、がん細胞の薬剤耐性獲得に影響していることが知られている。そこで我々はRelA阻害剤を探索することとした。その際、32,955化合物に対して、RelAのDNA結合を阻害する化合物を探索した。その結果、RelA選択的な阻害効果を持つ化合物を発見した。本化合物はNF-kB研究用ツールや臨床に用いられる薬剤のシード化合物としての活用が期待される。
成果掲載誌 Identification of a Selective RelA Inhibitor Based on DSE-FRET Screening Methods
Yoshitomo Shiroma, Go Fujita, Takuya Yamamoto, Ryou-u Takahashi, Ashutosh Kumar, Kam Y. J. Zhang, Akihiro Ito, Hiroyuki Osada, Minoru Yoshida, Hidetoshi Tahara
Int. J. Mol. Sci. 21(23), 9150 (2020) doi: 10.3390/ijms21239150

パーキンソン病治療が期待できるビリルビン産生促進剤の発見

利用者 慶應義塾大学
理工学部
井本正哉先生
内容 様々な運動障害を主症状とする神経変性疾患であるパーキンソン病は、高齢化に伴い増加の一途を辿っている。しかし、パーキンソン病の原因である酸化ストレスの増加とそれに伴う中脳黒質内の神経細胞死を抑制するような画期的新薬は未だ開発されていない。そこで今回我々は、パーキンソン病罹患者の血中ビリルビン量が減少しているという報告に着目した。ビリルビンは強力な抗酸化物質であることから、低下したビリルビンの量を回復させることで酸化ストレスを軽減し、神経細胞死を抑制できることが期待された。そこで、独自に開発した細胞内ビリルビン測定系を用いて約10,000化合物の中からビリルビン量を増加させるような薬剤を探索した結果、BRUP-1という化合物を同定した。BRUP-1はKeap1タンパク質を直接阻害することによって、Nrf2-HO-1-ビリルビン経路という細胞内の酸化ストレスに対抗するメカニズムを活性化させることが分かった。そしてBRUP-1は期待通り、パーキンソン病モデル細胞において見られる活性酸素の増加や神経細胞死を強力に抑制しただけでなく、ヒトiPS細胞由来の神経細胞に対しても有意な保護効果を示した。これらの結果からBRUP-1はパーキンソン病の新規治療薬シード化合物として期待されると同時に、ビリルビン量の調節がパーキンソン病の治療に有用である可能性を示唆している。
成果掲載誌 BRUP-1, an intracellular bilirubin modulator, exerts neuroprotective activity in a cellular Parkinson’s disease model
Tetsushi Kataura, Shinji Saiki, Kei-ichi Ishikawa, Wado Akamatsu, Yukiko Sasazawa, Nobutaka Hattori, Masaya Imoto
J. Neurochem. 155, 81-97 (2020) doi: 10.1111/jnc.14997
化合物

インフラマソーム病等の分子標的薬となるNLRP3インフラマソーム形成阻害剤探索

利用者 愛媛大学
プロテオサイエンスセンター
増本純也先生
内容 インフラマソームは、病原体や自己の危険な代謝産物などを認識する(Nod-like receptors; NLRs)、アダプター分子のASCとタンパク質分解酵素のCaspase-1からなる細胞内のタンパク質複合体である。インフラマソームの形成によって、IL-1β前駆体が切断されて活性化し、組織に炎症が誘導される。2型糖尿病やアルツハイマー病は、NLRP3インフラマソームが関与するインフラマソーム病と言われている。また、NLRP3の機能獲得型の変異は自己炎症疾患の原因となる。現在までにNLRP3とASCの相互作用を直接阻害する分子標的薬は報告されていない。そこで、NLRP3とASCの相互作用を直接阻害してNLRP3インフラマソームの形成を抑制し、インフラマソーム病や自己炎症疾患を治療する分子標的薬の開発を目的として、コムギ胚芽無細胞タンパク質合成技術により、無細胞NLRP3インフラマソーム再構成系を構築した。この系を用いて、9600化合物から成るコアライブラリーをスクリーニングし、複数の候補化合物を得た。そのうちのひとつの化合物KN3014は、LPSで刺激したヒト末梢血単核球からのIL-1βの産生を抑制し、炎症可視化マウス(IL-1β based Dual Operating Luciferase; IDOL)の発光を抑制した。さらにNLRP3遺伝子の機能獲得型変異により、インフラマソーム活性が亢進している自己炎症疾患であるMuckle-Wells症候群の末梢血からのIL-1β産生を抑制した。
成果掲載誌 KN3014, a piperidine-containing small compound, inhibits auto-secretion of IL-1β from PBMCs in a patient with Muckle–Wells syndrome
Naoe Kaneko, Mie Kurata, Toshihiro Yamamoto, Tomonari Shigemura, Kazunaga Agematsu, Takashi Yamazaki, Hiroyuki Takeda, Tatsuya Sawasaki, Tomohiro Koga, Atsushi Kawakami, Akihiro Yachie, Kiyoshi Migita, Koh-ichiro Yoshiura, Takeshi Urano, Junya Masumoto
Sci. Rep. 10, 13562 (2020) doi: 10.1038/s41598-020-70513-0
化合物

急性リンパ性白血病に関連するとされるMEF2D融合タンパク質の分解誘導剤探索

利用者 名古屋大学
大学院医学系研究科
早川文彦先生
内容 MEF2D融合タンパク質は急性リンパ性白血病の原因タンパク質と考えられている。今回、創薬機構からvalidated libraryを提供いただき、開発した細胞内のMEF2D融合タンパク質量を簡便・迅速に測定できるシステムでスクリーニングした。その結果、staurosporineとK252aがcaspase-3/7によるMEF2D融合タンパク質の分解を誘導していることを発見した。
成果掲載誌 Staurosporine and venetoclax induce the caspase-dependent proteolysis of MEF2D-fusion proteins and apoptosis in MEF2D-fusion (+) ALL cells
Naoyuki Tange, Fumihiko Hayakawa, Takahiko Yasuda, Koya Odaira,
Hideyuki Yamamoto, Daiki Hirano, Toshiyasu Sakai, Seitaro Terakura, Shinobu Tsuzuki, Hitoshi Kiyoi
Biomedicine & Pharmacotherapy 128, 110330 (2020) doi: 10.1016/j.biopha.2020.110330

脳由来神経栄養因子の遺伝子発現活性化剤の探索

利用者 高崎健康福祉大学
薬学部
福地 守先生
内容 記憶学習に代表される高次脳機能発現に根幹的に重要な脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor: BDNF)遺伝子発現を活性化する化合物を探索するため、1280種類の既知薬理活性化合物の活性を評価した。その結果、18種類の化合物にBDNF遺伝子発現誘導活性が認められた。これら化合物は、神経細胞におけるBDNF発現を増加させることで、加齢に伴う認知機能の低下やアルツハイマー病による認知機能障害を改善する効果を有する可能性が期待される。今後、動物個体を用いて、これら化合物が脳内BDNF遺伝子発現や記憶学習などの高次脳機能への影響を評価する必要がある。
成果掲載誌 Identifying inducers of BDNF gene expression from pharmacologically validated compounds; antipyretic drug dipyrone increases BDNF mRNA in neurons
Mamoru Fukuchi
Biochem. Biophys. Res. Commun. 524, 957–962 (2020) doi: 10.1016/j.bbrc.2020.02.019

脱ユビキチン化酵素阻害剤の探索

利用者 愛媛大学
プロテオサイエンスセンター
高橋宏隆先生
内容 直鎖状ユビキチン鎖(M1鎖)は、炎症応答や免疫制御のマスターレギュレーターであるNF-κBの活性化を誘導する重要な因子である。M1鎖はLUBAC複合体とよばれるユビキチンE3リガーゼ複合体によって合成され、脱ユビキチン化酵素(DUB)であるCYLDやOTULINによって分解される。通常の細胞においては、M1鎖の合成・分解のバランスが保たれることでNF-κBの活性が適正に制御されており、このバランスの破綻は免疫疾患などを惹起することが知られている。しかし、NF-κBの活性化経路において、同じM1鎖を標的とするCYLDとOTULINが細胞内でどのように使い分けられているかは、依然として不明のままである。そこで本研究においては、CYLDを標的とする低分子化合物を開発することで、NF-κBの負の制御メカニズムの解明と創薬への応用を目指した。
まず、コムギ無細胞系により合成した組換えCYLDタンパク質と、AlphaScreenを基盤としたin vitro DUBアッセイを構築した。このアッセイ系を用いて、9,600種類の化合物(コアライブラリー)より、CYLDのDUB活性を阻害する化合物を一種類見出し、その化合物構造からSubquinocinと命名した。Subquinocinはin vitroのみならず、細胞においてもCYLDの活性を抑制することで、NF-κB活性を亢進することが明らかとなった。また、SubquinocinはNF-κB活性化経路のなかで、負のフィードバック過程を有意に抑制していた。この抑制はOTULINのノックアウト細胞でも認められたことから、NF-κBの負のフィードバックではCYLDが主要なDUBとして機能していることが明らかとなった。またコムギ無細胞系を用いたin vitroでの特異性評価から、SubquinocinはCYLDが属するUSPファミリーのDUBのみを阻害することが明らかとなった。USPファミリーには、免疫疾患や神経疾患に関わるDUBがいくつも含まれており、Subquinocinをリード化合物として構造展開を行うことで、それらの DUBに特異性を有する化合物の開発が期待される。
成果掲載誌 Subquinocin, a small molecule inhibitor of CYLD and USP-family deubiquitinating enzymes, promotes NF-κB signaling
Satoshi Yamanaka, Yusuke Sato, Daisuke Oikawa, Eiji Goto, Shuya Fukai, Fuminori Tokunaga, Hirotaka Takahashi, Tatsuya Sawasaki
Biochem. Biophys. Res. Commun. 524, 1–7 (2020) doi: 10.1016/j.bbrc.2019.12.049
化合物

抗真菌薬の探索

利用者 長崎大学
大学院医歯薬学総合研究科
宮崎泰可先生
内容 侵襲性の真菌感染症が現在増加の一途にあるが、使用できる抗真菌薬は限られている。創薬機構から提供された化合物ライブラリー(9600化合物)を主要な病原性真菌Candida albicans、Aspergillus fumigatusを用いてスクリーニングすることにより、抗真菌作用を有する化合物を見出した。ヒット化合物の構造展開を行い、更に抗真菌活性の高い化合物を合成した。
成果掲載誌 Design and synthesis of a class of compounds that inhibit the growth of fungi which cause invasive infections
Nana Nakada-Motokawa, Taiga Miyazaki, Satoshi Mizuta, Yoshimasa Tanaka, Tatsuro Hirayama, Takahiro Takazono, Tomomi Saijo, Kazuko Yamamoto, Yoshifumi Imamura, Koichi Izumikawa, Katsunori Yanagihara, Koichi Makimura, Kohsuke Takeda, Shigeru Kohno, and Hiroshi Mukae
ChemistrySelect 5, 1140–1145 (2020) DOI: 10.1002/slct.201904380
化合物

ユビキノン合成に関わる酵素COQ7の阻害剤探索

利用者 理化学研究所
生命機能科学研究センター
田仲昭子先生
内容 ヒト細胞のユビキノン合成を阻害するために、キーとなる酵素COQ7の阻害剤を取得した。細胞内のキノン成分分析を指標に、DDIの化合物をスクリーニングし、得られたヒット化合物を論理的に合成展開して、高い活性の阻害剤を開発した。キノン欠乏症の発症メカニズムは不明な点が多く、細胞のキノン合成活性と取り込み活性のバランスを解析することができるこれらの化合物は、今後の有用な研究ツールとなると考えられる。
成果掲載誌 Identification of small molecule inhibitors of human COQ7
Keiko Tsuganezawa, Katsuhiko Sekimata, Yukari Nakagawa, Rei Utata, Kana Nakamura, Naoko Ogawa, Hiroo Koyama, Mikako Shirouzu, Kiyoshi Kita and Akiko Tanaka
Bioorg. Med. Chem. 28, 115182 (2020) doi: 10.1016/j.bmc.2019.115182
化合物

小胞体ストレスを緩和する化合物探索

利用者 徳島大学
先端酵素学研究所
親泊政一先生
内容 約22万種類の化合物ライブラリーから、小胞体ストレスを緩和する化合物を探索し、東京医科歯科大学の細谷孝充教授らのグループと徳島大学の小迫英尊教授らのグループと共同で、新規同定した化合物IBT21が小胞体ストレスで生じるタンパク質の凝集を抑制する化学シャペロンとして働くことを見出した。IBT21は、神経変性疾患の原因となる誤って折り畳まれたタンパク質の凝集を抑制して細胞保護に働くことから、アルツハイマー病やハンチントン病、プリオン病といった神経変性疾患の新たな治療薬候補となることが期待される。
成果掲載誌 Cell-based HTS identifies a chemical chaperone for preventing ER protein aggregation and proteotoxicity
Keisuke Kitakaze, Shusuke Taniuchi, Eri Kawano, Yoshimasa Hamada, Masato Miyake, Miho Oyadomari, Hirotatsu Kojima, Hidetaka Kosako, Tomoko Kuribara, Suguru Yoshida, Takamitsu Hosoya, Seiichi Oyadomari
eLife 8, e43302 (2019) doi: 10.7554/eLife.43302
化合物

GATA-3とDNAとの結合阻害剤探索

利用者 愛媛大学
プロテオサイエンスセンター
高橋宏隆先生
内容 免疫システムの司令塔であるヘルパーT細胞は、その機能から複数種のヘルパーT細胞サブセットに分類される。ヘルパーT細胞サブセットは互いに量的なバランスを取っているが、そのバランスの崩れが自己免疫疾患やアレルギー疾患を引き起こすことが知られている。例えば、アレルギー疾患はTh2細胞の過剰分化が主たる要因であると考えられ、Th2細胞の分化やその機能を抑制することでアレルギー疾患の根治治療となりうると予想される。
Th2細胞の分化と機能を制御するマスター転写因子GATA3は、核内でDNAに結合することで機能するタンパク質である。これまで、転写因子とDNAの結合を阻害する低分子化合物の取得は技術的に容易ではないと考えられてきた。本研究では、コムギ無細胞系とAlphaScreenを用いてin vitroにおける転写因子-DNA結合をモニタリングするシステムを構築し、この結合を阻害する化合物の探索を行った。
その結果、9600種の低分子化合物から成るCore Libraryより、GATA3の組換えタンパク質と標的DNA配列の結合を顕著に阻害する低分子化合物を1種類同定した。同定された化合物は、試験管内のみならず、細胞内でGATA3のDNA結合活性を阻害することで、Th2細胞への分化を有意に低下させ、Th2細胞分化後もTh2系サイトカインの産生を顕著に抑制することを見出した。以上の結果から、本研究で構築したスクリーニング系が、転写因子のDNA結合活性阻害を目的とした薬剤探索に有効であることを示した。また見出された化合物を基盤に、Th2分化を阻害する抗アレルギー薬開発を目指す。
成果掲載誌 Pyrrothiogatain acts as an inhibitor of GATA family proteins and inhibits Th2 cell differentiation in vitro
Shunsuke Nomura, Hirotaka Takahashi, Junpei Suzuki, Makoto Kuwahara, Masakatsu Yamashita, Tatsuya Sawasaki
Sci. Rep. 9, 17335 (2019) doi: 10.1038/s41598-019-53856-1
化合物

放射線治療の増感剤の探索

利用者 産業技術総合研究所
バイオメディカル研究部門
高橋淳子先生
内容 創薬機構から提供頂いた化合物のいくつかが放射線照射により活性酸素を出すというデータを取得して、放射線治療の増感剤に有用であるという可能性を示した。
成果掲載誌 Screening of X-ray responsive substances for the next generation of radiosensitizers
Akihiro Moriyama, Takema Hasegawa, Lei Jiang, Hitoshi Iwahashi, Takashi Mori, and Junko Takahashi
Sci. Rep. 9, 18163 (2019)

歯周病原因菌の増殖阻害剤の探索

利用者 日本歯科大学
生命歯学部
才木桂太郎先生
内容 多くの成人が罹患している慢性歯周炎等の歯周病は公衆衛生上の重要な疾患である。歯周病は病原性微生物の感染で発症するのではなく、もともと人の口腔内に常在しているPorphyromonas gingivalis等の細菌が異常に増殖して発症する。従って歯周病の治療には歯周病原因菌のこの異常な増殖を抑制することが重要である。本研究は歯周病原因菌Porphyromonas gingivalisの3種類の異なる培地での増殖をすべて阻害する活性を指標にして東京大学創薬機構から提供された106,560個の化合物をスクリーニングし、9個の抗生物質と7個の抗生物質とは異なる化合物を得た。またこの得られた7個の化合物の中で最も強力な増殖阻害活性を示したdiphenyleneiodonium chlorideはその増殖阻害活性が従来の抗生物質とは異なることが分った。この結果は抗生物質を使わない新たな歯周病の治療法の開発に繋がると期待される。
成果掲載誌 A screening system using minimal media identifies a flavin-competing inhibitor of Porphyromonas gingivalis growth
Keitarou Saiki, Yumiko Urano-Tashiro, Kiyoshi Konishi, and Yukihiro Takahashi
FEMS Microbiol. Lett. 366, fnz204 (2019)

がん進展抑制が期待できるNotchシグナリング阻害剤の探索

利用者 北海道大学
大学院薬学研究院
中矢 正先生
内容 I型膜タンパク質であるNotchは膜外及び膜内において二段階の切断を受け、生じた細胞内領域断片(Notch intracellular domain, NICD)が核内に移行することで細胞内情報伝達を担う。これをNotchシグナリングという。Notchシグナリングは、正常細胞では組織の維持・構築にかかわる一方、Notchの遺伝子変異等によるシグナルの恒常的活性化は、がんの進展や血管新生に関与していることが多数報告されている。本研究では、NICDの機能を標的とした、がん進展阻害化合物の開発を目的とした。NICDを用いたリポーターアッセイ系を構築し、9,600化合物を探索した結果、NICDの機能を有意に阻害する1ヒット化合物を得た。更に、類縁体探索から、NICD阻害活性を持ちつつ、細胞毒性の弱い化合物、NSI-1(Notch signaling inhibitor-1)を得た。NSI-1は既知のNotchシグナリング阻害剤であるDAPTと同等の濃度依存性を示した。DAPTはNotchの切断を阻害するが、NSI-1はNICDの核内移行を抑制することを見出した。また、3種のがん細胞株を用いてNSI-1の細胞障害活性を調べたところ、Notchの発現依存的に細胞増殖を抑制することを見出した。以上のことから、NSI-1は新規Notchシグナリング阻害剤であり、がん進展阻害活性を有することが明らかとなった。
成果掲載誌 Novel Notch signaling inhibitor NSI‑1 suppresses nuclear translocation of the Notch intracellular domain
Takaya Shiraishi, Masahiro Sakaitani, Satoko Otsuguro, Katsumi Maenaka, Toshiharu Suzuki, Tadashi Nakaya
Int. J. Mol. Med. 44, 1574-1584 (2019)
化合物  

トランスサイレチンアミロイド形成抑制剤の探索

利用者 熊本大学病院
植田光晴先生
内容 アミロイドーシスは、局所または全身の臓器における、様々な種類のタンパク質に由来する不溶性アミロイド線維の細胞外沈着を特徴とする遺伝性または後天性難治性疾患である。アミロイド関連疾患の原因分子として36種類以上のアミロイド形成タンパク質がこれまでに同定されている。加齢、遺伝子変異、炎症、及び腫瘍性疾患は、疾患特異的アミロイド関連タンパク質の過剰産生、ミスフォールディング、及びクリアランスの低下、ならびにタンパク質分解を介してこれらのアミロイドーシスの発症に影響していると考えられている。しかし、これら疾患の詳細な病理学的メカニズムはまだ判っておらず、病気の原因となる組織のアミロイド線維を除去する治療法はない。
トランスサイレチンは、肝臓で産生され血中へ分泌される蛋白質であるが、アミロイド線維を形成し組織の細胞外に沈着することで全身性アミロイドーシスを生じ、全身諸臓器(末梢神経や心臓、消化管、眼など)の機能障害を引き起こす。
我々はトランスサイレチンC末端側で構成されるリコンビナント蛋白質を用いて、本アミロイドを評価するハイスループットなスクリーニング法(cell-based assay法)を開発した。創薬機構よりoff-patent 医薬品ライブラリー(1,280種)の分与を受け、本スクリーニング法で解析し、複数のアミロイド抑制剤の候補を得た。特に、ピルビニウムパモ酸塩とアポモルフィン塩酸塩は、in vitroで強いTTRアミロイド抑制作用を持つことが判明した。これらの候補薬が生体でも効果を持つか今後検証する必要がある。
成果掲載誌 A cell-based high-throughput screening method to directly examine transthyretin amyloid fibril formation at neutral pH
Mitsuharu Ueda, Masamitsu Okada, Mineyuki Mizuguchi, Barbara Kluve-Beckerman, Kyosuke Kanenawa, Aito Isoguchi, Yohei Misumi, Masayoshi Tasaki, Akihiko Ueda, Akinori Kanai, Ryoko Sasaki, Teruaki Masuda, Yasuteru Inoue, Toshiya Nomura, Satoru Shinriki, Tsuyoshi Shuto, Hirofumi Kai, Taro Yamashita, Hirotaka Matsui, Merrill D. Benson, Yukio Ando
J. Biol. Chem. 294, 11259–11275 (2019)
化合物  

オルガノイドを用いた胆道がん治療薬のリポジショニング探索

利用者 慶應義塾大学
薬学部
齋藤義正先生
内容 近年、組織幹細胞やがん幹細胞を3次元で培養することで、生体内の組織や腫瘍を培養皿の中で再現するオルガノイド培養技術が開発された。我々は、肝内胆管がん、胆嚢がんおよびファーター乳頭部に発生した神経内分泌がんの患者より提供されたがん組織を用いてオルガノイドを樹立し、1年以上にわたり安定的に培養・維持することに成功した。これらの患者由来の胆道がんオルガノイドは、生体内の腫瘍と組織学的にも機能的にも極めて高い類似性を示すことを確認している。
本研究では、胆道がんに対する安全かつ有効な新しい治療薬を探索するために、樹立した胆道がんオルガノイドを用いて、東京大学創薬機構から提供された既存薬ライブラリーを用いて薬物スクリーニングを行った。予想通り、ヒット化合物のほとんどがジェムシタビンをはじめとする抗腫瘍薬であったが、興味深いことに、これまでに抗腫瘍作用が報告されていないアモロルフィンおよびフェンチコナゾールがヒット化合物の中に含まれていた。樹立した複数の胆道がんオルガノイドを用いて検証したところ、アモロルフィンおよびフェンチコナゾールが胆道がんオルガノイドの増殖を抑制することが明らかになった。特にアモロルフィンはジェムシタビンと同等の増殖抑制効果を示し、さらに正常胆管細胞に対してはほとんど毒性を示さないことを見出した。アモロルフィンおよびフェンチコナゾールは、白癬菌(水虫)をはじめとする真菌感染症に対する治療薬として使用されており、市販化合物なのですでに安全性が確認されている。ドラッグリポジショニングにより、もともとは抗真菌薬であるアモロルフィンおよびフェンチコナゾールが、胆道がんを最小限の副作用で効率的に抑制する新規予防・治療薬の候補になることが期待される。
成果掲載誌 Establishment of patient-derived organoids and drug screening for biliary tract carcinoma.
Yoshimasa Saito, Toshihide Muramatsu, Yae Kanai, Hidenori Ojima, Aoi Sukeda, Nobuyoshi Hiraoka, Eri Arai, Yuko Sugiyama, Juntaro Matsuzaki, Ryoei Uchida, Nao Yoshikawa, Ryo Furukawa, Hidetsugu Saito.
Cell Rep. 27, 1265–1276.e4 (2019)
化合物  

アリの乾燥環境耐性を制御するイノトシン受容体阻害剤の同定

利用者 東京大学
大学院薬学系研究科
三浦正幸先生/古藤日子先生(現 産業技術総合研究所)
内容 社会性昆虫であるアリは、複雑な社会性を備えた集団で生活する。特に、集団の大多数を占める労働アリは、それぞれの個体が異なる仕事を分担する労働分業を示す。一般に若い個体は巣の中で子育てを担当し、老齢個体は野外で餌集めや見回りを担当する。このような労働アリの行動の変化に伴い、個体を取り巻く外的な環境も大きく変化し、特に巣の外で働く老齢個体は、野外の温度・湿度変化を経験し、地表面の乾燥環境に耐えて活動しなければならない。今回、昆虫から、ヒトを含む哺乳類まで進化的に広く保存されたオキシトシン・バソプレシンファミリーペプチドであるイノトシンが、女王や雄といった階級に比較して労働アリにおいて高く発現していることを見出した。またイノトシンシグナルを阻害する化合物を網羅的スクリーニングにより同定し、そのシグナル活性を労働アリ個体において薬理学的に操作し阻害することにより、イノトシンシグナルは労働アリにおいて体表面からの水分の蒸発を防ぎ乾燥耐性に重要な役割を果たす炭化水素の合成を制御し、労働アリの社会的な労働分業を支える体づくりの仕組みの一端を担うことが分かった。
成果掲載誌 Oxytocin/vasopressin-like peptide inotocin regulates cuticular hydrocarbon synthesis and water balancing in ants
Akiko Koto, Naoto Motoyama, Hiroki Tahara, Sean McGregor, Minoru Moriyama, Takayoshi Okabe, Masayuki Miura, and Laurent Keller. PNAS 116, 5597-5606 (2019)
化合物

メラニン生成抑制剤の探索

利用者 株式会社コーセー
笠 明美様
内容 色素沈着、いわゆるシミには、メラニン色素が表皮ケラチノサイトに多量に蓄積されている。本来メラニンは紫外線から核を守る大切な役割を担っているが、紫外線、ストレスや加齢により、メラノサイトが刺激を受けると、メラニンが多量に生成され色素沈着が生じる。メラニンは、メラノサイト内の律速酵素チロシナーゼにより産生される。したがって、色素沈着を防ぐためにはチロシナーゼの活性を抑制するアプローチが有効と考えられる。そこで、東京大学創薬機構から提供された1998種を用いてスクリーニングを実施した結果、インドール-2-カルボン酸と6-フェニル-インドール-2-カルボン酸にチロシナーゼ活性阻害効果を見出した。これらの化合物には優れたメラニン生成抑制効果も確認されたことから、色素沈着に対して有用なものと期待される。
成果公表 特開2018-168142
化合物

変異型アクチビン受容体様キナーゼ2(ALK2)阻害剤の探索

利用者 理化学研究所
創薬化学基盤ユニット
小山裕雄先生
内容 進行性骨化性線維異形成症は、小児期から全身の筋肉やその周囲の膜、腱、靭帯などが進行性に骨化する疾患である。また、びまん性内在性橋神経膠腫は、小児の脳幹に広範囲に発生する悪性腫瘍であり、致死率は100%に近い。これらの疾患に有効な治療方法は確立されていないが、共通する病因の一つにアクチビン受容体様キナーゼ2(ALK2)の変異が報告されている。骨形成タンパク質と結合した変異ALK2は、高度にリン酸化し、シグナルの異常亢進により、骨化及び癌細胞の増殖を促すことが示唆されている。そこで、我々は変異ALK2を治療標的と選定し、変異ALK2の異常なシグナルを抑制する化合物の探索を行った。創薬機構の化合物ライブラリーからヒット化合物を見出した後、活性の増強や物性、薬物動態の改善に努め、ドラッグライクな化合物を合成した。
成果掲載誌 Bis-Heteroaryl Pyrazoles: Identification of Orally Bioavailable Inhibitors of Activin Receptor-Like Kinase-2 (R206H)
Katsuhiko Sekimata, Tomohiro Sato, Naoki Sakai, Hisami Watanabe, Chiemi Mishima-Tsumagari, Tomonori Taguri, Takehisa Matsumoto, Yoshifumi Fujii, Noriko Handa, Teruki Honma, Akiko Tanaka, Mikako Shirouzu, Shigeyuki Yokoyama, Kohei Miyazono, Yoshinobu Hashizume, Hiroo Koyama. Chem. Pharm. Bull. 67, 224-235 (2019)
化合物

新規セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ蛍光プローブによる阻害剤探索

利用者 東京大学
大学院工学系研究科
山東信介先生/野中 洋先生
内容 セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(SHMT)は、セリン-グリシン変換を触媒する酵素である。この反応に伴う反応生成物は、増殖著しい細胞においてDNA合成に用いられる。このSHMTの発現量が、がんの増殖能と強い相関を持つことが報告されており、SHMT阻害剤は有用な抗がん剤候補になり得る。我々は、SHMTの酵素活性を簡易に蛍光モニタリングできる蛍光プローブの開発に成功しており、創薬機構の保有する化合物ライブラリーに対し阻害剤スクリーニングをおこなった。その結果、2種の化合物が阻害剤候補として取得された。
成果掲載誌 Design strategy for serine hydroxymethyltransferase probes based on retro-aldol-type reaction
Hiroshi Nonaka, Yuki Nakanishi, Satoshi Kuno, Tomoki Ota, Kentaro Mochidome, Yutaro Saito, Fuminori Sugihara, Yoichi Takakusagi, Ichio Aoki, Satoru Nagatoishi, Kouhei Tsumoto, Shinsuke Sando. Nature Communications 10, 876 (2019)
化合物  

タンキラーゼ阻害剤の探索

利用者 がん研究会
清宮啓之先生
内容 Wnt/β-カテニンシグナルの異常活性化は大腸がんの発がん及びがん細胞の増殖を促進する。タンキラーゼはβ-カテニンシグナルを活性化する酵素であり、その阻害剤はβ-カテニンシグナルを抑制するので、大腸がんの治療薬となると期待されている。化合物ライブラリーのスクリーニングにより見出されたヒット化合物の構造変換を行い、強力なタンキラーゼ阻害剤であるRK-287107を見出した。ヒト大腸がん由来のCOLO-320DM細胞やSW403細胞は、細胞増殖がβ-カテニンシグナルに強く依存するが、RK-287107はこれら大腸がん細胞の増殖を強力に抑制した。COLO-320DM細胞を異種移植した大腸がんモデルマウスにRK-287107を投与すると、腫瘍の増大が顕著に抑制された。今後、RK-287107の構造最適化を行うことにより、新規メカニズムによる大腸がん治療薬の開発が期待される。
成果掲載誌 RK-287107, a potent and specific tankyrase inhibitor, blocks
colorectal cancer cell growth in a preclinical model
Anna Mizutani, Yoko Yashiroda, Yukiko Muramatsu, Haruka Yoshida, Tsubasa Chikada, Takeshi Tsumura, Masayuki Okue, Fumiyuki Shirai, Takehiro Fukami, Minoru Yoshida, Hiroyuki Seimiya
Cancer Sci. 109, 4003-4014 (2018).

変異ABCD1タンパク質を安定化する化合物の探索方法

利用者 富山大学
大学院医学薬学研究部
守田雅志先生
内容 本研究は副腎白質ジストロフィーと呼ばれる難治性疾患の治療薬開発を目的として行った。本疾患は男児約2万人に一人の割合で起こるX連鎖劣性の遺伝子疾患で、大脳における広範囲な脱随と副腎不全を特徴とする神経変性疾患である。現在、有効な治療法がなく、早急な治療薬の開発が求められている。本疾患はペルオキシソーム膜ABCタンパク質ABCD1をコードするABCD1遺伝子の変異が原因で起こることが知られている。患者で見つかっているミスセンス変異ABCD1タンパク質の約70%は細胞内で分解されてしまい機能を失う。しかし、ミスセンス変異ABCD1タンパク質の中には、細胞内での分解を抑制することで正常にペルオキシソームに局在化し、その機能を回復する変異が存在する。このような変異の場合では、変異ABCD1タンパク質の分解を抑制する化合物が治療薬候補となる。本研究では、蛍光タンパク質GFPを融合したミスセンス変異ABCD1を細胞に発現すると、変異ABCD1タンパク質が分解されると同時にGFPの蛍光も消失することを見出した。このことを利用し、蛍光強度を指標にした、変異ABCD1タンパク質を安定化する化合物探索のためのアッセイ系を構築した。創薬機構から提供された既存薬化合物ライブラリーをスクリーニングすることにより、このアッセイ系が治療薬候補化合物の探索に有効であることを示した。今後、このアッセイ系を用いてさらに多くの低分子化合物のスクリーニングを行うことにより本疾患に対する治療薬の開発が期待される。
成果掲載誌 Stability of the ABCD1 Protein with a Missense Mutation: A Novel Approach to Finding Therapeutic Compounds for X-Linked Adrenoleukodystrophy
Masashi Morita, Shun Matsumoto, Airi Sato, Kengo Inoue, Dzmitry G. Kostsin, Kozue Yamazaki, Kosuke Kawaguchi, Nobuyuki Shimozawa, Stephan Kemp, Ronald J. Wanders, Hirotatsu Kojima, Takayoshi Okabe, Tsuneo Imanaka
JIMD Rep. 44, 23-31 (2019).

上皮性ナトリウムチャネル活性化剤探索

利用者 東京大学
大学院農学生命科学研究科味覚サイエンス(日清食品)寄付講座
阿部啓子先生 / 朝倉富子先生
内容 上皮性ナトリウムチャネル(ENaC)は、腎臓を含む多くの組織でナトリウムイオンの再吸収に関与し、ナトリウムの恒常性維持の中心的な役割を果たす。偽性低アルドステロン症1型をはじめとするhuman ENaCαβγの変異による遺伝疾患が報告されており、human ENaCαβγ活性を調節する治療薬の開発は、これらの疾病を緩和しうる。本研究では創薬機構のケミカルライブラリーを用いてhuman ENaCαβγの活性化分子を同定し、その活性機構を解明することを目指した。計6100化合物のスクリーニングの結果、インドール環またはベンゾチオフェン環を有する11化合物が候補分子として同定された。更に選抜した5化合物の活性をhuman ENaCの3つのサブユニットα β γをmouse ENaCの各サブユニットに置換した3種類のキメラ体を作製して解析した。その結果、5化合物すべてがヒトβサブユニットに作用し、1化合物を除いてγサブユニットにも作用することが明らかになった。この発見はhENaC活性化様式を知る上で有益である。
成果掲載誌 Novel indole and benzothiophene ring derivatives showing differential modulatory activity against human epithelial sodium channel subunits, ENaC β and γ
Yoichi Kasahara, Takanobu Sakurai, Ryusei Matsuda, Masataka Narukawa, Akihito Yasuoka, Naoki Mori, Hidenori Watanabe, Takayoshi Okabe, Hirotatsu Kojima, Keiko Abe, Takumi Misaka and Tomiko Asakura,
Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry 83, 243-250 (2019).

ALS治療薬の探索

利用者 東京大学
大学院薬学系研究科
一條秀憲先生
内容 筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis : ALS)は、上位及び下位の運動神経細胞が選択的に障害される晩発性・進行性の神経変性疾患である。痙攣や筋麻痺、筋萎縮といった症状がみられ、主に呼吸筋麻痺による呼吸不全から、発症後数年で死に至る非常に重篤な疾患である。しかしながら、いまだ発症機構が十分に解明されていないことから、明確な分子基盤に基づくALSの根本的な治療法は存在していない。
我々はこれまでALSの原因となる変異型SOD1が、小胞体膜タンパク質Derlin-1と結合することで運動神経細胞死を誘導することを報告してきた。今回、発症機構に基づいた新たなALS治療薬の候補として、この2つのタンパク質の結合を阻害する低分子化合物の取得を目指し、約16万種類の低分子化合物に対してハイスループットスクリーニングを行った。その中で顕著にSOD1とDerlin-1の結合を阻害した#56という化合物に注目した。#56とその類似体はSOD1に結合することで、Derlin-1との結合阻害活性を発揮した。#56は細胞内で活性を示さなかったため、構造展開することにより細胞内で結合阻害活性を示す#56-40ならびに#56-59を得た。さらに、変異型SOD1を発現したALS病態モデルマウスに#56-59を投与することで、ALS発症時期の遅延と寿命の延長効果が確認できた。
以上の結果から、変異型SOD1とDerlin-1の結合はALS病態に重要な寄与をしており、我々の見出だした結合阻害剤#56-59は分子メカニズムに基づいたALS治療薬となり得る可能性を秘めていることがわかった。
成果掲載誌 Naomi Tsuburaya, Kengo Homma, Tsunehiko Higuchi, Andrii Balia, Hiroyuki Yamakoshi, Norio Shibata, Seiichi Nakamura, Hidehiko Nakagawa, Shin-ichi Ikeda, Naoki Umezawa, Nobuki Kato, Satoshi Yokoshima, Masatoshi Shibuya, Manabu Shimonishi, Hirotatsu Kojima, Takayoshi Okabe, Tetsuo Nagano, Isao Naguro, Keiko Imamura, Haruhisa Inoue, Takao Fujisawa and Hidenori Ichijo,
Nature Communications 9, 2668 (2018)
化合物

植物ホルモンのアブシジン酸受容体アゴニスト

利用者 愛媛大学
プロテオサイエンスセンター
澤崎達也先生
内容 近年、地球環境の変化や産業活動などの影響により、気候変動の幅が大きくなっている。特に、世界規模で多発する干ばつによる被害は甚大であり、作物の安定した生産が難しい時代に突入した。また、世界人口は爆発的な増加を続けており、2100年には人類は110億人規模となることが予想され、穀物の安定生産は喫緊の課題である。
高等植物は急激な環境変化に適応するための独自進化した様々な機構を有している。植物ホルモン・アブシジン酸(ABA) は環境ストレスから身を守るためのシグナル分子として働く低分子の化合物であり、乾燥や低温、塩などに対する耐性獲得に深く関与している。そのため、環境変化に左右されにくい安定した作物生産を目的とした農業生産分野における利用が期待されているが、ABAが光高感受性であること、生産コストが高いことなどから実用化には至っていない。そのために、ABAと同様の活性を有するアゴニスト化合物の開発に注目が集まっている。このような背景から、近年、モデル植物シロイヌナズナのABA受容体を用いた酵母ツーハイブリッドや植物個体に薬剤を直接処理する化合物スクリーニングにより、ABA受容体に直接作用し、ABAシグナル伝達経路を活性化するアゴニスト化合物が見出されている。しかし、上記のスクリーニング技術は膨大な時間と労力を要するだけでなく、化合物の細胞膜透過性や予期せぬサイドエフェクトによって受容体に対する化合物機能を正確に解析することが難しいという欠点がある。そこで、我々は、受容体タンパク質に対する化合物の機能を、生化学的解析によって評価することがアゴニスト化合物探索や化合物の至適化に有効なアプローチであると考え、コムギ無細胞翻訳系を基盤としたin vitro アッセイによる高感度かつ特異的なABA受容体機能解析技術を開発した。本技術を用いて、東京大学創薬機構が保有する化合物ライブラリーを対象にしたABAアゴニスト探索を実施した結果、既知のABAアゴニスト化合物とは異なる構造を有する新規なABAアゴニスト化合物の同定に成功した。さらに、ヒット化合物をシードに類縁体化合物を合成し、ヒット化合物よりも比活性の高い化合物や、ABA受容体ファミリーのなかの特定の受容体にのみ作用する選択的アゴニストの開発に成功した。また、本アゴニスト化合物は植物個体におけるABA応答性遺伝子発現を誘起すること、発芽抑制効果があることなどから、植物個体においても機能しうることが明らかになった。これらの結果から、同定した新規なアゴニスト化合物は、ABAによって制御されているシグナル伝達経路を活性化することが可能であり、様々な環境ストレスに対する耐性獲得のための新たな植物成長調整剤の開発に繋がることが期待できる。さらに、本アプローチは高い精度とハイスループット性(4万アッセイ/1日) を有していることから、受容体に作用するアゴニスト化合物探索や化合物の至適化に有効な技術であると考えられる。また、コムギ無細胞系の柔軟なタンパク質発現系を基盤としていることから、さまざまなタンパク質を標的としたアゴニスト/アンタゴニスト探索への応用が可能である。
成果掲載誌 Identification of new abscisic acid receptor agonists using a wheat cell-free based drug screening system
Keiichirou Nemoto, Makiko Kagawa, Akira Nozawa, Yoshinori Hasegawa, Minoru Hayashi, Kenichiro Imai, Kentaro Tomii and Tatsuya Sawasaki
Scientific Reports (2018) 8:4268
化合物

カイコモデルを用いた抗菌剤評価

利用者 株式会社ゲノム創薬研究所
研究本部
関水和久先生
内容 化合物ライブラリーより初めて見いだしたエステル抗菌化合物を、カイコ細菌感染モデルを用いた治療効果を指標に有機合成展開による最適化を実施した。得られたより高い治療効果を示す化合物と、それと構造が近いが治療効果を示さない化合物について薬物動態パラメータを比較解析したところ、治療効果を説明できるパラメータの違いが得られた。また、ヒト肝抽出物における代謝速度とも相関が認められた。従って、カイコモデルは、治療効果を指標とした抗菌化合物の有機合成展開に応用可能である。
成果掲載誌 Pharmacokinetic parameters explain the therapeutic activity of antimicrobial agents in a silkworm infection model
Atmika Paudel, Suresh Panthee, Makoto Urai, Hiroshi Hamamoto, Tomohiko Ohwada and Kazuhisa Sekimizu
Scientific Reports 8, 1578 (2018)
化合物
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GPI0039

抗がん活性化合物の探索

利用者 理化学研究所
創薬シード化合物探索基盤ユニット
吉田 稔先生
内容 創薬機構から提供された化合物ライブラリーをスクリーニングすることにより、細胞増殖等に関わるタンキラーゼ(tankyrases)を阻害するヒット化合物を見出した。ヒット化合物の構造改変により抗がん活性が強化された新規な構造を有する化合物群を見出した。治療薬としての開発を進めるために2016年6月30日に特許出願を行い、2018年1月4日に特許が公開された。
成果公表 WO 2018003962

アルドステロン合成酵素発現抑制剤の発見

利用者 東北大学
大学院医学系研究科
菅原 明先生
内容 アルドステロン合成酵素CYP11B2は生体内のミネラル調節に必要な酵素であるが、過剰に発現すると高血圧症を引き起こすことが知られている。今回、創薬機構のvalidated化合物ライブラリーを用いた化合物スクリーニングから、CYP11B2の発現を抑制する化合物bortezomibを同定した。
成果掲載誌 A ubiquitin-proteasome inhibitor bortezomib suppresses the expression of CYP11B2, a key enzyme of aldosterone synthesis
Ryo Ito, Ikuko Sato, Tadayuki Tsujita, Atsushi Yokoyama, Akira Sugawara
Biochem. Biophys. Res. Commun. 489, 21-28 (2017) doi: 10.1016/j.bbrc.2017.05.109.

がん細胞間の接着性の回復剤探索

利用者 理化学研究所
竹市雅俊先生
内容 細胞間接着は上皮組織の構造と機能を維持するために必須です。しかし、進行がんでは、細胞間接着構造が乱れ、がん由来の細胞株においては、接着異常がしばしば観察されます。接着異常は、がんの悪性度を増大させる可能性があり、正常な接着性を回復させることが出来れば、がん治療に貢献できる可能性があります。そこで、私たちは、大腸がん由来細胞株・HT29細胞を使って、がん細胞の細胞間接着を回復させることができる化合物のスクリーニングを行いました。蛍光タンパクで標識した接着分子を安定発現させたHT29細胞を用い、化合物ライブラリーの各サンプルで処理した時の接着分子の変化を、ハイコンテンツイメージングシステムを使って解析しました。その結果、複数の微小管重合阻害剤がHT29細胞の細胞間接着を回復させることが分かりました。その分子機構を研究した結果、微小管重合阻害の処理により、細胞頂端部の表層においてRhoA-ROCK-アクトミオシン系が活性化し、その収縮が細胞間接触部位に張力を発生させ、これが、細胞間接着の回復に重要であることが明らかになりました。
成果掲載誌 Induced cortical tension restores functional junctions in adhesion-defective carcinoma cells
Shoko Ito, Satoru Okuda, Masako Abe, Mari Fujimoto, Tetsuo Onuki, Tamako Nishimura, Masatoshi Takeichi
Nature Communications 8, Article number:1834 (2017).

難治性悪性リンパ腫治療薬の探索

利用者 名古屋大学
医学部附属病院血液内科
早川文彦先生
内容 Primary effusion lymphomaという非常に難治性の悪性リンパ腫に対する治療薬の候補薬剤を発見した。
成果掲載誌 YM155 induces apoptosis through proteasome-dependent degradation of MCL-1 in primary effusion lymphoma
Yuki Kojima, Fumihiko Hayakawa, Takanobu Morishita, Keiki Sugimoto, Yuka Minamikawa, Mizuho Iwase, Hideyuki Yamamoto, Daiki Hirano, Naoto Imoto, Kazuyuki Shimada, Seiji Okada, Hitoshi Kiyoi
Pharmacol. Res. 120, 242-251(2017).

インシリコ技術を用いたネコカリシウイルスプロテアーゼ阻害剤探索

利用者 国立感染症研究所
病原体ゲノム解析研究センター/ウイルス第二部
横山 勝先生/岡 智一郎先生
内容 ネコカリシウイルス(FCV)はヒトノロウイルスに似た性質を持ち、培養細胞を用いた感染増殖系が樹立されているため、米国環境保護庁によってヒトノロウイルスの代替ウイルスに指定されている。FCVの複製にはウイルスプロテアーゼ(vPR)が必須である。今回、コンピュータを用いた立体構造解析と実験により、vPRを標的とする抗FCV物質の設計、選別、評価を行った(構造ベースの創薬シーズ探索)。ホモロジーモデリングによりFCVプロテアーゼの立体構造モデルを構築し、株間の相同性を評価した後、計139369化合物のライブラリーからFCV プロテアーゼの基質の物理化学特性を有し、基質会合部位の空間に適合する非ペプチド性の低分子化合物を結合シミュレーションなどにより選択した。その後、FCVの感染・増殖細胞内のFCV プロテアーゼ活性を定量できるバイオセンサー発現細胞系、無細胞系を用いて、これら候補化合物が抗FCVプロテアーゼ活性をもち、FCVに対するウイルス増殖抑制効果も有することを示した。
成果掲載誌 A Proposal for a Structural Model of the Feline Calicivirus Protease Bound to the Substrate Peptide under Physiological Conditions
Masaru Yokoyama, Tomoichiro Oka, Hirotaka Takagi, Hirotatsu Kojima, Takayoshi Okabe, Tetsuo Nagano, Yukinobu Tohya and Hironori Sato
Front. Microbiol. 8, 1383 (2017).
化合物
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yokoyama201701yokoyama201702

黄色ブドウ球菌のバイオフィルム形成阻害剤の探索

利用者 東京慈恵会医科大学
医学部医学研究科 細菌学講座
奥田賢一先生
内容 黄色ブドウ球菌は鼻腔や皮膚の常在菌であるが、深刻な感染症を引き起こす病原菌でもある。特に、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の蔓延は世界的な問題となっている。黄色ブドウ球菌は様々な医療用デバイス表面でバイオフィルムと呼ばれる集合塊を形成し、バイオフィルム感染症を引き起こす原因となる。バイオフィルムを形成した細菌は、多くの抗菌薬の作用から逃れる性質を持つため、バイオフィルム感染症の治療は極めて困難であり、有効な治療法・予防法の開発が求められている。我々は、東京大学創薬機構が保有する化合物ライブラリーに含まれる約6万化合物からスクリーニングを行い、合成プロゲステロンであるnorgestimate(NGM)が黄色ブドウ球菌に対してバイオフィルム形成阻害活性を示すことを発見した。バイオフィルムの構成成分である細胞外マトリクスを解析した結果、NGMは細胞外マトリクス内の多糖とタンパク質の量を減少させることが明らかになった。また、黄色ブドウ球菌のタンパク質合成に与える影響をプロテオーム解析により評価したところ、NGM存在下でバイオフィルム形成への関与が報告されている細胞壁アンカータンパク質surface protein Gやenolaseの発現が低下することが示された。続いて、細胞壁合成への影響を透過電子顕微鏡観察により調べた結果、NGM存在下では細胞壁の肥厚化や異常な隔壁合成が認められた。さらに、トランスクリプトーム解析の結果から、細胞壁の合成と分解に関与する複数の遺伝子の発現がNGM存在下で上昇することが明らかになった。加えて、NGMが抗菌薬の活性に与える影響を調べたところ、β‐ラクタム系抗菌薬に対する黄色ブドウ球菌の感受性を有意に上昇させることが明らかになった。以上の結果から、NGMは黄色ブドウ球菌のタンパク質発現プロファイルを変化させることでバイオフィルム形成に重要な細胞外マトリクスの産生を抑制し、細胞壁の恒常性に影響を及ぼすことでβ‐ラクタム系抗菌薬感受性化を誘導することが示唆された。
成果掲載誌 Norgestimate inhibits staphylococcal biofilm formation and resensitizes methicillin-resistant Staphylococcus aureus to β-lactam antibiotics
Ken-ichi Okuda, Yutaka Yoshii, Satomi Yamada, Mari Nagakura, Shinya Sugimoto, Tetsuo Nagano, Takayoshi Okabe, Hirotatsu Kojima, Takeo Iwamoto, Kazuyoshi Kuwano and Yoshimitsu Mizunoe
npj Biofilms and Microbiomes 3, 18 (2017)
化合物
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Norgestimate

マイクロRNA-29a前駆体(pre-miR-29a)に結合する化合物

利用者 大阪大学
産業科学研究所
中谷和彦先生
内容 マイクロRNA-29a前駆体(pre-miR-29a)に結合する低分子量化合物の探索を行った。創薬機構の保有する化合物の中から塩基性アミノ基を一つ以上有する41,119化合物(AQライブラリー)を、X2SdiMeを蛍光指示薬とした蛍光ディスプレイスメントアッセイおよび表面プラズモン共鳴(SPR)による結合評価を二度行い、ヒット化合物として21化合物を選んだ。また、一度目のSPRアッセイで得たヒット化合物中に含まれる骨格と同じ骨格を有する化合物をAQライブラリー中から抽出し、SPRアッセイを行うことでpre-miR-29aに対する結合に重要と考えられる5つの骨格を選び出した。この一連のアッセイにより、マイクロRNA前駆体に結合する低分子量化合物及び重要骨格の探索が可能であることを示すことができた。
成果掲載誌 Exploratory Study on the RNA-Binding Structural Motifs by Library Screening Targeting pre-miRNA-29a
Takeo Fukuzumi, Asako Murata, Haruo Aikawa, Yasue Harada, Kazuhiko Nakatani
Chem. Eur. J. 21, 16859-16867 (2015)
化合物
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fukuzumi_etal

Streptococcus属細菌のQuorum-sensing阻害剤の探索

利用者 大阪医科大学
生化学教室
石井誠志先生
内容 Quorum-sensingは細菌に広く存在する細胞間情報伝達経路で、細菌が様々な環境変化に適応し生存するために必要な遺伝子群の発現を制御している。ComABCDE pathwayはStreptococcus属細菌のQuorum-sensing伝達経路で、Competence(外来DNAの取りこみや組換え)やバイオフィルム形成などに主要な役割を果たすことが知られている。これまでにComABCDE pathwayの各componentの遺伝子を欠失した株では、バイオフィルム形成に異常が見られる事が報告されている。したがって、この経路に対する阻害剤を開発すれば、Streptococcus属細菌が起因する感染性心内膜炎などの難治性バイオフィルム感染症の治療薬として役立つことが期待される。とりわけこの経路の初発段階で機能するComA(ABCトランスポーター)のペプチダーゼドメイン(PEP)は細菌に特有のタンパク質で創薬標的分子として適している。
本研究では、まず蛍光基質ペプチドを作成し、PEPを阻害する低分子化合物を探索するHigh-throughputスクリーニング系を開発した。この系を用いて16万5千化合物を含むライブラリー(東京大学 創薬機構)からミュータンス菌のPEPに対する阻害剤を見出した。その類縁化合物からCompound 1(Ki = 38 μM)を見出した。この化合物はPEP活性を阻害することでQuorum-sensing伝達経路を攪乱し、ミュータンス菌のバイオフィルム形成(EC50 = 5 μM)ならびにCompetenceを抑制する。また、X線結晶構造解析からCompound 1の類縁体が、PEPに新たに見つかったアロステリック部位に結合することが明らかとなった。PEPのアロステリック部位は触媒反応の進行に伴って構造変化をすると考えられ、おそらくCompound 1はこの構造変化を妨げることでPEPの活性を阻害するものと推測される。さらに本研究ではCompound 1が他のStreptococcus属細菌のComAに由来するPEPも阻害する事を示した。この結果は、一つの薬剤で臨床上問題となるミュータンス菌や肺炎球菌をはじめとする複数のStreptococcus属細菌のQuorum-sensingを阻害する方法の開発が可能であることを示唆する。
成果掲載誌 High-throughput Screening of Small Molecule Inhibitors of the Streptococcus Quorum-sensing Signal Pathway
Seiji Ishii, Kenji Fukui, Satoshi Yokoshima, Kazuo Kumagai, Youko Beniyama, Tetsuya Kodama, Tohru Fukuyama, Takayoshi Okabe, Tetsuo Nagano, Hirotatsu Kojima and Takato Yano
Scientific Reports 7, 4029 (2017)
化合物
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Ishii_compound

P2Y6受容体阻害剤の探索

利用者 高崎健康福祉大学
薬学部
伊藤政明先生
内容 アデノシン三リン酸(ATP)は生体におけるエネルギー物質として重要であることは広く知られております。一方で、このATP、UTPをはじめとするヌクレオチドは病態や機械的刺激などの様々なストレスにより細胞外に放出され、プリン受容体を介して多様な生理応答を引き起こします。なかでもウリジン二リン酸(UDP)を内因性アゴニストとするP2Y6受容体は、気管支喘息や炎症性腸疾患などの炎症応答を基盤とする病態との因果関係が示唆されています。したがって、その受容体機能の調節は創薬の標的として有用であると考えられていますが、未だ治療薬の開発には至っておりません。
本研究では、ヒトP2Y6受容体に作用する新規低分子化合物を探索するために東京大学創薬機構が所有する化合物ライブラリーより提供を受けた141,700化合物を対象にハイスループットスクリーニングを行い、ヒトP2Y6受容体に選択的な阻害物質群の同定に成功しました。この化合物群は、既存の非特異的な阻害剤と比較して、新しい骨格を有し受容体選択性も高く、阻害活性も同等以上でした。以上より、今回同定した化合物群はP2Y6受容体生理機能の解明を推進するツールとして、また同受容体が関与する疾患に対する治療薬開発のリード化合物として有用であると期待されます。
成果掲載誌 Identification of novel selective P2Y6 receptor antagonists by high-throughput screening assay
Masaaki Ito, Shin-ichiro Egashira, Kazuki Yoshida, Tomoko Mineno, Kazuo Kumagai, Hirotatsu Kojima, Takayoshi Okabe, Tetsuo Nagano, Michio Ui, Isao Matsuoka
Life Sci. 180, 137-142 (2017)
化合物
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02930_00102930_002

カイコを用いた黄色ブドウ球菌に対する新規抗菌薬の探索

利用者 株式会社ゲノム創薬研究所
関水和久様
内容 カイコ細菌感染モデルを用いて治療効果を指標とした新規抗菌薬の探索を行った。その結果、Spiro-heterocyclic化合物がカイコの黄色ブドウ球菌感染モデルで治療効果があるものと見いだされた。その化合物の機序を解析したところ、RNA polymeraseのσ因子に作用してRNA合成を阻害していると考えられた。また、本化合物はマウスの全身感染モデルにおいて延命効果を示した。
成果掲載誌 A Novel Spiro-Heterocyclic Compound Identified by the Silkworm Infection Model Inhibits Transcription in Staphylococcus aureus
Atmika Paudel, Hiroshi Hamamoto, Suresh Panthee, Keiichi Kaneko, Shigeki Matsunaga, Motomu Kanai, Yutaka Suzuki and Kazuhisa Sekimizu
Frontiers in Microbiology 8, 712 (2017)
化合物
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GPI0363

Nucleoproteinを標的とするインフルエンザウイルス複製阻害剤探索

利用者 理化学研究所
間 陽子先生
内容 現在インフルエンザ治療薬としてM2チャネル阻害剤とノイラミニダーゼ阻害剤の2つが主に用いられている。しかしながら、これら治療薬に対して耐性のインフルエンザの発生が知られており、新たなターゲットをもつ治療薬の開発が望まれている。我々は以前に、新たなインフルエンザ治療薬としてインフルエンザウイルス複製に重要なNucleoprotein (NP)を標的とした薬剤スクリーニングを行い、東京大学創薬機構コアライブラリー9,600化合物の中から新規インフルエンザ治療薬候補化合物DP2392-E10を取得している。
本研究では、このDP2392-E10の示したインフルエンザウイルス複製阻害能について詳細の解析を行い、ウイルス複製阻害機構を解明した。
まずDP2392-E10は様々なA型インフルエンザウイルス株に対して複製阻害作用を示すことを明らかにした。また、この化合物は細胞内の核外輸送タンパク質CRM-1に直接結合することで、インフルエンザNPの核外移行を阻害することを明らかにした。そこで、コンピューターシミュレーションによりDP2392-E10のCRM-1への結合部位を解析した結果、CRM-1のHEAT9およびHEAT10と呼ばれる構造に隣接した領域に結合ポケットがあることが示唆された。これらの結果からCRM-1を介するインフルエンザウイルスの核外移行機構はインフルエンザ治療薬の新たなターゲットであり、DP2392-E10を基本構造とした新規治療薬開発が望まれる。
成果掲載誌 Inhibition of CRM1-mediated nuclear export of influenza A nucleoprotein and nuclear export protein as a novel target for antiviral drug development
Nopporn Chutiwitoonchai, Takafumi Mano, Michinori Kakisaka, Hirotaka Sato, Yasumitsu Kondoh, Hiroyuki Osada, Osamu Kotani, Masaru Yokoyama, Hironori Sato, Yoko Aida
Virology 507, 32-39 (2017)
化合物
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DP2392-E10

G0s2の発現抑制による抗炎症剤の同定

利用者 九州大学
大学院薬学研究院
大戸茂弘先生
内容 ヒトを始めとする地球上の多くの生物には約24時間を1周期とする概日リズムが認められる。これら概日リズムは時計遺伝子と呼ばれる転写因子群の転写翻訳フィードバックループによって厳密に制御され、酵素、受容体、トランスポーターなどの様々な機能性タンパク質の発現に概日リズムを生じさせている。よってこれら概日リズムが薬の効果や副作用の発現に影響を与えることから、至適投薬時刻を設定することは効果の増強また副作用の軽減に繋がる。また最近の研究成果より、時計遺伝子は様々な病気の発症や症状に影響を与えることが示唆されていることから、これらの分子機構は臨床および基礎研究においても注目されている。
リウマチなど自己免疫疾患をはじめ、癌、メタボリックシンドロームなど様々な病態に炎症が認められる。これら炎症は概日時計機構と密接な関連が認められ、近年の報告では炎症に伴う様々な反応は時計遺伝子により転写レベルで制御されていることが示唆されている。
そこで我々は、概日時計機構を基盤として炎症の新たな分子の探索を行った。その結果、炎症性サイトカインの概日リズム形成にG0/G1 switch gene 2(G0s2)が関与していることを明らかにした。またG0s2の発現を抑制する化合物を同定するために東京大学 創薬機構が所有するコアライブラリーより提供を受けた9,600化合物を対象にハイスループットスクリーニングを行い、G0s2の発現を抑制し炎症を抑制する新たな機構の抗炎症化合物の同定に成功した。また現在、同定した化合物を基にして、より効果の強い化合物の合成および同定に成功している。
成果掲載誌 Inhibition of G0/G1 Switch 2 Ameliorates Renal Inflammation in Chronic Kidney Disease
Naoya Matsunaga et al.
EBioMedicine 13, 262-273 (2016)
化合物
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NS-3-008

上皮間葉転換阻害剤の発見

利用者 ORGANOGENIX株式会社
事業部
新井一也様
内容 Epitherial-Mesenchymal transition(EMT)は癌の転移および悪性化において重要なイベントである。癌細胞は、周囲の間質細胞からTransforming growth factor(TGF) 等のサイトカインによるEMT刺激を受け取ることにより、細胞間接着の減少および運動・浸潤能の亢進の結果、転移能を獲得するに至る。このことからEMT阻害剤は癌の転移および悪性化を抑制することが期待されている。従来までのEMT阻害剤探索の方法は、EMT分子マーカーの発現量や細胞の遊走性・浸潤性を評価する、スループットの低い煩雑なものであった。そこで我々はスフェロイドの形態変化を評価する新規ハイスループットスクリーニング系を開発し、東京大学創薬機構より提供を受けた1330化合物からEMT阻害活性を持つ化合物のパイロットスクリーニングを行った。
一次スクリーニングではTGF-β1型受容体であるSB-525334を含む4つの候補化合物が選択された。EMTの阻害能について濃度依存性を検討する二次スクリーニングによりCDK2阻害剤であるSU 9516がEMT阻害剤の候補化合物として選択された。さらにSU 9516はEMT誘導によるスフェロイド/細胞形態の変化およびE-cadherin発現減少を阻害することが確認された。これらの結果から、開発されたシステムはEMT阻害剤候補物質のより簡便かつ高いスループットなスクリーニングを可能とすることが期待される。
成果掲載誌 A Novel High-Throughput3D Screening System for EMT Inhibitors: A Pilot Screening Discovered the EMT Inhibitory Activity of CDK2 Inhibitor SU9516
Kazuya Arai, Takanori Eguchi, M. Mamunur Rahman, Ruriko Sakamoto, Norio Masuda, Tetsuya Nakatsura, Stuart K. Calderwood, Ken-ichi Kozaki, Manabu Itoh.
PLoS ONE 11(9), e0162394 (2016)
化合物
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02548_001
02548_002
02548_003
02548_004g

植物成長調節剤の発見

利用者 秋田県立大学
応用生物科学科
王敬銘先生
内容 ガス状の植物ホルモンエチレン(C2H4)は、植物の発芽、芽生えの成長、果実の成熟、葉の老化、環境ストレスへの応答、病原体への防御など様々な生理プロセスにおいて中心的な役割を担うことが知られている。エチレンが植物の成長制御や病原体への防御機能を示すことから、農業生産におけるその利用が注目され、基礎・応用両面の研究が盛んに行われてきた。しかし、実際使用できる薬剤は極めて限られている。この分野では生物活性本体であるエチレンが気体である難点があり、野外栽培作物にエチレンの散布は困難である。そのため、エチレン活性の持続性が長く、散布容易な非ガス形エチレン活性物質の開発は望まれている。
本研究では、エチレン活性を示す化合物を探索するため、エチレン処理により特異的に誘導される植物の「三重反応」形態を指標に、貴組織のコアライブラリーを鋭意探索した結果、非ガス形で植物の「三重反応」を誘導する化合物を見出した。
成果公表 特開2016-164151
化合物
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01830

抗トリパノソーマ剤シード化合物の発見

利用者 富山大学
大学院医学薬学研究部
今中常雄先生
内容 原虫トリパノソーマは重篤な熱帯感染症を引き起こすが、未だ有効な治療薬は存在しない。トリパノソーマには、グリコソームという原虫特有のオルガネラが存在し、解糖系によるATP産生の場としてその生存・増殖に必須である。グリコソームの形成機構は哺乳動物ペルオキシソームの形成機構と類似しており、マトリックスタンパク質の局在化にはPex5pとPex14pの相互作用を必要とする。よってこの相互作用を原虫選択的に阻害する化合物は原虫感染症治療薬のシーズとなり得る。本研究では、トリパノソーマPex5p-Pex14p間相互作用の阻害を評価するため、FRET(蛍光共鳴エネルギー移動)を応用したハイスループットアッセイ系を構築し、新規治療薬候補化合物の探索を行った。Pex5p-His、GST-Pex14pは、大腸菌に発現させ、精製した。1次スクリーニングでは、両タンパク質を混合し、蛍光物質テルビウムクリプテート(ドナー)、FITC(アクセプター)でそれぞれ標識した抗GST抗体、抗His抗体と反応させた。タンパク質間相互作用は、337 nmの波長で励起されたドナーの蛍光波長(490nm)がアクセプターへとシフトすることで発生する蛍光波長(520 nm)の増減をFRET値として評価した。2次スクリーニングでは、トリパノソーマ及びヒトPex5p-Pex14p間相互作用の阻害をpull down assayにより評価した。ハイスループットアッセイに用いるPex5p-His、GST-Pex14pの最適濃度を決定し、化合物溶媒に用いるDMSOのassay系への影響を検討した。20,800種類の化合物を対象に1次スクリーニングを行った。その結果、コントロールのFRET値から標準偏差の3倍以上の阻害率を示す化合物139種類を見出だし、さらにn=4で再度検証し、平均阻害率が20%以上の化合物11種類に絞りこんだ。この11化合物を対象に行った2次スクリーニングの結果、トリパノソーマPex5p-TbPex14p間相互作用を選択的に阻害する化合物を1種類見出した。本化合物はトリパノソーマ感染症治療薬のシード化合物となることが期待される。この成果を、以下の論文に発表した。
成果掲載誌 An HTRF based high-throughput screening for discovering chemical compounds that inhibit the interaction between Trypanosoma brucei Pex5p and Pex14p
Yuichi Watanabe, Kosuke Kawaguchi, Syuken Saito, Takayoshi Okabe, Kiyoaki Yonesu, Shinichiro Egashira, Masafumi Kameya, Masashi Morita, Yoshinori Kashiwayama, Tsuneo Imanaka.
Biochem. Biophys. Rep. 6, 260-265, (2016)
化合物
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compound_i

インフルエンザ治療薬開発を目指すNP-NES3阻害剤

利用者 理化学研究所
分子ウイルス学特別研究ユニット
間 陽子先生
内容 現在インフルエンザ治療薬としてM2チャネル阻害剤とノイラミニダーゼ阻害剤の2つが主に用いられている。しかしながら、これら治療薬に対して耐性のインフルエンザの発生が知られており、新たなターゲットをもつ治療薬の開発が望まれている。我々はこれまでにインフルエンザのNucleoprotein (NP)タンパク質に存在する核外移行シグナル3 (NP-NES3)が、ウイルスの増殖に重要な役割を果たしていることを明らかにしており、今回新たなインフルエンザ治療薬のターゲットとしてNP-NES3の機能を阻害する薬剤を取得する新規ハイスループットスクリーニング法を開発した。まずインフルエンザNP-NES3の遺伝子配列を蛍光タンパク質(GFP)に結合したAcGFP-NP-NES3タンパク質を細胞内で恒常的に発現する安定細胞株を樹立した。そこに東京大学創薬機構コアライブラリーより提供を受けた9,600化合物をそれぞれ添加した結果、NP-NES3を持つ蛍光タンパク質の核外への移行が阻害され、核のGFP蛍光強度が高くなる化合物を取得することに成功した。これら化合物についてさらに細胞毒性試験、インフルエンザウイルス複製阻害試験を行い、最終的に核外移行阻害能を示し、低毒性でインフルエンザウイルス複製阻害能を持つ化合物DP2392-E10を同定することができた。これにより、この新たなスクリーニング法を用いることで、NP-NES3を標的とした新規治療薬の開発が可能となったことが示された。
成果掲載誌 A high-throughput screening system targeting the nuclear export pathway via the third nuclear export signal of influenza A virus nucleoprotein.
Michinori Kakisaka, Takafumi Mano, Yoko Aida
Virus Res. 217:23-31 (2016).
化合物
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Aida_etal06

ジアシルグリセロールキナーゼα阻害化合物の発見

利用者 千葉大学
大学院理学研究院
坂根郁夫先生
内容 従来の抗がん剤である化学療法剤は、あらゆる細胞に発現している細胞増殖機構を制御するため、正常細胞の増殖も抑制する。特に、骨髄細胞の分化増殖能を低下させ免疫系の不全をもたらすことが臨床において問題となる。近年増加している分子標的治療薬も、その薬物の標的蛋白は正常細胞においても発現しているため、臨床では特有の副作用が生じることが知られている。ジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)のαアイソザイム(DGKα)は悪性黒色腫や肝細胞がんの増殖を亢進するが、Tリンパ球では逆に増殖停止・不活性化(anergy)へ誘導する。従って、DGKαを阻害する薬剤は、直接がん細胞死を誘導し、かつ、Tリンパ球を活性化することでがん免疫亢進作用によるがん細胞死滅が期待でき、理想的・画期的な抗がん剤となると考えられる。そこで、DGKα阻害化合物を、最近開発したハイスループットスクリーニング系を用い、東京大学創薬機構の化合物ライブラリーをスクリーニングしてDGKαを特異的かつ効果的に阻害する化合物を1種類(CU-3)得た。本化合物は実際にがん細胞の死滅を誘導し、Tリンパ球を活性化した。今後更に最適化研究を行い、画期的な次世代抗がん剤の早期開発を目指す。
成果掲載誌 A novel diacylglycerol kinase α-selective inhibitor, CU-3, induces cancer cell apoptosis and enhances immune response
Ke Liu, Naoko Kunii, Megumi Sakuma, Atsumi Yamaki, Satoru Mizuno, Mayu Sato, Hiromichi Sakai, Sayaka Kado, Kazuo Kumagai, Hirotatsu Kojima, Takayoshi Okabe, Tetsuo Nagano, Yasuhito Shirai, and Fumio Sakane.
J. Lipid Res. 57:(3) 368-379, (2016)
化合物
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CU-3

クマムシの乾眠回復を阻害する化合物

利用者 東京大学
大学院理学系研究科生物科学
國枝武和先生
内容 クマムシは独自の緩歩動物門を構成する体長1mm以下の微小動物であり、約1000種が記載されている。基本的に水中に生息する水生生物であるが、コケ上の水膜や土壌の間隙水などに生息する一部の種は、周辺環境の乾燥に伴い、ほぼ完全に脱水し「乾眠」と呼ばれる無代謝状態に移行することで乾燥環境に耐えることができ、給水により生命活動を再開する。ヤマクマムシ(Hypsibius dujardini)はゆっくりと時間をかけて乾燥することではじめて乾眠状態に移行できることから、この種ではゆっくりとした乾燥中に外界の乾燥を感知して乾眠の準備を行う機構が存在すると考えられるが、その分子機構は全く分かっていなかった。今回我々は、東京大学創薬機構から提供を受けた活性既知化合物81種を用いてヤマクマムシの乾眠を阻害する化合物を探索した結果、乾眠後の回復率を顕著に阻害する5種の化合物を同定した。中でもprotein phosphatase (PP) 1/PP2Aの阻害剤であるcantharidic acidは他の化合物よりも強い阻害作用を示した。別種のPP1/PP2A選択的阻害剤であるokadaic acidを用いた場合も乾眠後の回復率を特異的に阻害したことから、PP1/PP2Aの活性がヤマクマムシの乾眠移行に必要であることを初めて示唆した。今回同定した化合物は、クマムシの乾眠を制御する分子機構を解明するための強力なツールになることが期待される。
成果掲載誌 Suggested Involvement of PP1/PP2A Activity and De Novo Gene Expression in Anhydrobiotic Survival in a Tardigrade, Hypsibius dujardini, by Chemical Genetic Approach.
Koyuki Kondo, Takeo Kubo, Takekazu Kunieda
PLoS ONE 10(12), e0144803 (2015).
化合物
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J-8
Triptolide
MNS
Cantharidic Acid

がん微小環境を標的とする化合物の発見

利用者 名古屋大学
医学部附属病院血液内科
早川文彦先生
内容 抗癌剤の開発は腫瘍細胞に体外で化合物ライブラリを添加し、増殖抑制効果の有るものをスクリーニングする手法が一般的である。腫瘍細胞としては、細胞株が用いられるが、これは腫瘍細胞の中でも特別に増殖特性の強い細胞に様々に手を加えることで体外培養を可能にした細胞であり、これを用いたスクリーニングは、微小環境非依存的な増殖を標的にした作用機序を持つ薬剤を選別するスクリーニングである。しかし実際の癌細胞は通常体外では生存できず、生体内の微小環境依存的に生存/増殖する細胞であり、多くの場合細胞株より増殖速度が遅い。既存の抗癌剤の多くが細胞周期依存性の作用機序を持ち、微小環境を標的とせず、結果として細胞周期回転の遅い腫瘍細胞、特に癌幹細胞に効果が低いことも、こうしたスクリーニングシステムの問題に起因する可能性がある。こうした問題点への解決策としてprimaryの腫瘍細胞を用いたスクリーニングが理想的であるが、通常primary細胞の体外培養は困難である事、細胞を自由なタイミングで用意できない事などからスクリーニングに用いる事はできなかった。
我々は免疫不全マウスにprimary腫瘍細胞を移植することによりprimary細胞の形質を維持したまま腫瘍細胞を増殖させるモデル(patient-derived xenograft: PDX)をリンパ腫において作成し、これから得られたPDX細胞を用いたスクリーニングシステムを開発した(PDXスクリーニング)。PDX細胞を必要に応じてマウス体内より採取し、Fibroblastic reticular cell(FRC)細胞株BLS4との共培養で、マウス体外で培養する。これに化合物ライブラリを添加し、イメージアナライザーを用いてリンパ腫死細胞数を選択的に計測する事で微小環境依存性増殖を抑制する化合物を探索した。薬理活性既知の化合物ライブラリ(2613種)を用いたスクリーニングを行い、BLS4によるリンパ腫細胞の生存支持を抑制する作用のある候補薬物としてPyruvinium Pamoate (PP)を発見した。PPは体外培養系、及びマウスモデルにおいて高い抗腫瘍活性を示し、その作用機序は微小環境による腫瘍細胞生存支持機能を阻害するものであった。このシステムにより、従来のスクリーニングではピックアップできなかったユニークな候補化合物を発見し、微小環境が癌細胞の生存を支持する新たな機序が発見できる可能性がある。
成果掲載誌 Discovery of a drug targeting microenvironmental support for lymphoma cells by screening using patient-derived xenograft cells.
Keiki Sugimoto, Fumihiko Hayakawa, Satoko Shimada, Takanobu Morishita, Kazuyuki Shimada, Tomoya Katakai, Akihiro Tomita, Hitoshi Kiyoi & Tomoki Naoe.
Scientific Reports 5, 13054 (2015).
化合物
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Pyrvinium pamoate

ストレプトアビジンに結合する新規小分子

利用者 東京大学
大学院薬学系研究科
寺井琢也先生
内容 放線菌の一種が作るstreptavidinというタンパク質は、水溶性ビタミンの一種であるビオチンという化合物と選択的に結びつくことが知られています。この結合は、自然界に存在するタンパク質とその結合分子(リガンド)の相互作用としては最も強力なものと考えられていて、これまで多くの研究の対象となってきました。また実用的な意味でも、両者はタンパク質と他の化合物(DNA、金属基盤、高分子ポリマーなど)を結びつける「瞬間強力接着剤」として、生物学研究や体外診断において幅広く利用されてきました。ただ、天然にあるビオチンは一度streptavidinに結合すると引き剥がすことが極めて難しいため、「ポストイット」や「マジックテープ」のように何度でも付け外しができる、新しいリガンドの開発も求められていました。そこで私たちは、東京大学創薬機構が持っていた約16万種類(当時)の化合物をスクリーニングすることにより、今までに知られているビオチンやその仲間(アナログ)とは違う形を持つ新しいリガンドを発見しようと考えました。この研究のために私たちが新たに立ち上げたスクリーニングシステムを使って実際に実験を行ったところ、期待通り4つの化合物を得ることに成功しました。その中の一つは特に有望な活性を持っていたので、タンパク質との結合メカニズムを詳しく調べると共に、化学合成によって更に使いやすい分子を作ることも行いました。このようにして得た化合物(ALiS)を細胞に作用させたところ、細胞の中に存在しているstreptavidinに速やかにALiSが結合し、かつ細胞外の培養液を交換するとその結合が外れることが確かめられました。この「付け外し」は繰り返し行うことができます。この研究を更に進めることにより、細胞の中のタンパク質のはたらきを自由にコントロールしたり、特定の分子を必要なときに体内に放出したりするシステムが作れるようになる可能性があります。
成果掲載誌 Artificial Ligands of Streptavidin (ALiS): Discovery, Characterization, and Application for Reversible Control of Intracellular Protein Transport.
Takuya Terai, Moe Kohno, Gaelle Boncompain, Shigeru Sugiyama, Nae Saito, Ryo Fujikake, Tasuku Ueno, Toru Komatsu, Kenjiro Hanaoka, Takayoshi Okabe, Yasuteru Urano, Franck Perez, and Tetsuo Nagano.
J. Am. Chem. Soc., 137 (33),10464-10467 (2015).
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ALiS-1

細胞競合力を促進する化合物

利用者 北海道大学
遺伝子病制御研究所 分子腫瘍分野
藤田恭之先生
内容  がん発生の超初期段階において、がんはがん遺伝子やがん抑制遺伝子の変異が正常上皮細胞内で生じることによって起こります。このがん変異細胞は正常細胞に囲まれながら発達していきます。私たちのこれまでの研究では、正常細胞とがん変異細胞の間で「細胞競合」が生じ、正常細胞に囲まれた変異細胞は管腔側へ押し出されるか細胞死を引き起こし、細胞層から排除されることを見つけました。本研究では、この正常細胞とRas変異細胞の間で起こる細胞競合に注目し、「細胞競合力」を促進する低分子化合物のハイスループットスクリーニングを行いました。
私たちは、イヌ腎臓尿細管上皮(MDCK)細胞を正常細胞として、テトラサイクリン誘導性GFP標識Rasを恒常的に発現するMDCK細胞を変異細胞として用いました。これに化合物ライブラリー(約2,600化合物)を同時添加し、テトラサイクリンによって誘導されるGFP-Rasの変化を変異細胞の影響として調べました。GFP強度の低下、毒性の有無、混合培養特異的作用などを考慮した結果、このライブラリーから1つの化合物を選択しこれをVC1と名付けました。
VC1は長期培養で正常細胞に対して毒性を示したことから、私たちはさらに化合物データベースからVC1に構造的に類縁な化合物を10種類見出し、VC1と同等の効果以上で毒性が低い化合物を1つ選択しVC1-8と名付けました。このVC1-8はVC1と同様に細胞非自律的にGFPを低下させるだけでなく長期培養でも正常細胞に対して毒性を示しませんでした。一方で正常細胞に囲まれたRas変異細胞に対しては細胞死を促進させることがわかりました。また、VC1-8はSrc変異細胞のようなRas以外の変異細胞に対してはこの効果を示さないのに対し、ヒト由来のRas変異細胞でも混合培養特異的に排除作用があることがわかりました。
以上のことから、VC1-8はRas変異細胞に対する細胞競合力を促進させる効果を持つ全く新規の作用を持つ化合物で、正常細胞にはほとんど影響を与えないことから副作用の少ない将来の抗がん剤となり得る可能性を秘めていることがわかりました。
成果掲載誌 The cell competition-based high-throughput screening identifies small compounds that promote the elimination of RasV12-transformed cells from epithelia.
Hajime Yamauchi, Takanori Matsumaru, Tomoko Morita, Susumu Ishikawa, Katsumi Maenaka, Ichigaku Takigawa, Kentaro Semba, Shunsuke Kon and Yasuyuki Fujita.
Scientific Reports, 5, 15536 (2015).
化合物
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VC1s_1
VC1s_2
VC1s_3
VC1s_4
VC1s_5
VC1s_6
VC1s_7
VC1s_8
VC1s_9

バクテリア細胞分裂に関与するFtsZタンパク質の二量体化阻害剤

利用者 北海道大学
大学院先端生命科学研究院先端細胞機能科学分野
金城政孝先生
内容 バクテリアの細胞分裂には複数のタンパク質が協働していますが、その中でも重要な働きをするタンパク質にFtsZがあります。細胞分裂時にFtsZは単量体から二量体、多量体を経て、細胞膜内側につながれた繊維状の環状構造を細胞の中央部分につくります。最終的に、この繊維が収縮することで、細胞はくびれるように分裂します。したがって、このFtsZタンパク質が二量体、多量体になることを阻害することができれば、細胞分裂できなくなり、細胞が増殖できなくなります。つまり、FtsZタンパク質の二量体を阻害する化合物は新規抗生物質としての「新薬の種」になり得ます。
そこで、本研究では新規抗生物質としての「新薬の種」になる化合物を見つけるために、コンピューターシミュレーションによるバーチャルスクリーニングと蛍光相互相関分光法(Fluorescence cross-correlation spectroscopy, 以下FCCS)を用いた化合物スクリーニング法を確立しました。FCCSとは2色の蛍光を観察することで、分子の動きや分子間相互作用を定量化できる蛍光イメージング手法の一つです。私たちはFCCSを用いて、正確に分子間相互作用を検出するためにFtsZタンパク質を半分に分割し、それぞれに2種類の蛍光タンパク質融合体(FtsZ-N末端-緑色蛍光タンパク質とFtsZ-C末端-赤色蛍光タンパク質)として発現精製しました。そして、これらのタンパク質はGTP存在下で再現性良く二量体化することがFCCS測定から確認されました。
次にこれらのFtsZタンパク質の二量体化を阻害する化合物を探すためにバーチャルスクリーニングを行いました。まず、X線構造解析から得られていたFtsZの立体構造をもとに、コンピューターシミュレーションでFtsZに結合できそうな化合物を約21万種類の東京大学創薬機構化合物ライブラリーから絞り込み、495種類の化合物を選出しました。そして、1次スクリーニングとしてその495種類の化合物の二量体化阻害効果をFCCSにより検定しました。その結果、495種類の化合物のうち、有意にFtsZタンパク質の二量体化を阻害する化合物が28種類見つかりました。さらにこの28種類の化合物に似た構造をもつ化合物をコンピューターを用いた類似構造検索により化合物ライブラリーから選び出し、888種類が候補として選出されました。そして、FCCSによる2次スクリーニングを行い、最終的に888種類の化合物のうち、有意にFtsZタンパク質の二量体化を阻害する化合物が71種類見つかりました(図2)。 71種類の化合物のうち、二量体化阻害効果が高かった6種類の化合物について、表面プラズモン共鳴法(Surface plasmon resonance:SPR)を用いて、化合物とFtsZ間の特異的な相互作用を確認しました。また、この6種類について、抗菌作用を確かめたところ、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA、一般的に多剤耐性を示す黄色ブドウ球菌)を含む黄色ブドウ球菌に対し、抗菌作用を持つ化合物が最終的に1種類みつかりました。
黄色ブドウ球菌は種々の抗生物質に対する耐性を獲得しやすい性質があり,多剤耐性菌として院内感染拡大の原因となっています。今回見つかった化合物はあくまで抗生物質としての「新薬の種」であり、実際の薬として用いるにはさらなる研究開発が必要ですが、多剤耐性菌に対して反撃の糸口となる化合物であると期待しています。
また、私たちが開発した方法はこれまで定量的なスクリーニングが難しかった「多量体を形成するタンパク質」に対して応用可能です。すなわち、神経細胞内で発生するタンパク質の凝集体(多量体)が原因で生じる神経変性疾患、たとえばアルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬の発見にも役立っていくと期待されます。
成果掲載誌 Screening for FtsZ Dimerization Inhibitors Using Fluorescence Cross-Correlation Spectroscopy and Surface Resonance Plasmon Analysis.
Shintaro Mikuni, Kota Kodama, Akira Sasaki, Naoki Kohira, Hideki Maki, Masaharu Munetomo, Katsumi Maenaka, Masataka Kinjo.
PLoS ONE 10(7), e0130933 (2015)
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comp_name_1
comp_name_2
comp_name_3

ショウジョウバエのグルタチオンS-転移酵素阻害剤

利用者 筑波大学
生命環境系
丹羽隆介先生
内容  グルタチオンS-転移酵素(GST)ファミリーは、ほぼ全ての生物に存在し、内在性物質の生合成や外来毒物の解毒などに広範な役割を果たします。近年では、GST 酵素活性の上昇とがんの悪性化にも関連があることが注目されており、GST 酵素活性を阻害する化合物は創薬シーズとしても重要視されています。今回我々は、GSTの酵素活性を簡便かつ高感度に測定することを可能とする新規蛍光プローブ 3,4-DNADCF を報告しました。3,4-DNADCF を利用することによって、GST酵素活性に対する阻害剤のハイスループットスクリーニングが短期間で実現可能となります。実際我々は、創薬機構のコアライブラリーを用いて、ショウジョウバエのステロイドホルモン生合成を担う GST(Noppera-bo)に対する阻害剤を発掘することに成功しました。同定された物質の1つは脊椎動物の女性ホルモンβ-エストラジオールであることも併せて報告しました。
成果掲載誌 A practical fluorogenic substrate for high-throughput screening of glutathione S-transferase inhibitors.
Yuuta Fujikawa, Fumika Morisaki, Asami Ogura, Kana Morohashi, Sora Enya, Ryusuke Niwa, Shinji Goto, Hirotatsu Kojima, Takayoshi Okabe, Tetsuo
Nagano and Hideshi Inoue.
Chem. Commun.,51, 11459-11462 (2015)
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beta-Estradiol

ステロイド検出用MALDI-MSマトリクス

利用者 産業技術総合研究所
健康工学研究部門
茂里康先生
内容  ポストゲノムのニーズとして、タンパク質、糖質、脂質等の生体分子や、薬物代謝物等を簡便に検出する手法の必要性が高まっている。質量分析法はこれらのニーズを満たす測定法であるが、機器のメンテナンス及び操作の複雑さから敬遠されて来た経緯がある。しかし田中耕一先生がノーベル賞を授与された事でも有名になった、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)は、迅速・簡便・高感度という三拍子揃った特徴を有する、ソフトイオン化法である。その結果、MALDI-MSは基礎研究に留まらず、臨床診断等への展開が期待されている。しかし万能の様に見えるMALDI-MSでも、測定には必ず分子量200前後のマトリックスが必要であり、(i)マトリックス由来のピークが邪魔をして、低分子化合物の分析には向いていない、(ii)糖質等の生体分子に対してイオン化しにくい、(iii)高分子量のタンパク質に対しても感度や分解能が低い等の欠点を有する。そこで既存の概念にとらわれずに、一からMALDI-MSのマトリックスを探索する事こそ、あらたなブレークスルーをもたらす戦略であると確信した。そこでペプチド及び低分子化合物(テストステロン)測定試料と東京大学創薬オープンイノベーションセンターのコア化合物ライブラリー(約1万化合物)を用いて、MALDI-MSマトリックス候補のスクリーニング(計2回)を行ったところ、チオフェン骨格を有する導電性化合物がMALDI-MSによるペプチド測定の良好なマトリックスとして働き、導電性という新たな概念がマトリックスの機能発揮に重要であることを発表した(論文Eur. J. Mass Spectrom., 19, 29-37, 2013)。またスクリーニングの結果、ヒドラジン・ヒドラジド化合物がシックハウスガスと縮合反応・誘導体化し、MALDI-MSマトリックスとしてさらに機能し、ガス状分子をMALDI-MSで直接検出出来る事を見いだした(論文J. Mass Spectrom., 21, 79-90, 2015)。さらに、ヒドラジン・ヒドラジド化合物について、各種カルボニル基を有するステロイドホルモンを測定試料としてMALDI-MS測定を実施した結果、ヒドラジド・ステロイド縮合複合体、その断片化合物が、正イオンモードで、高感度に検出できることを確認している。つまりステロイド等のイオン化しにくい生体分子でも、ヒドラジン・ヒドラジド等の誘導体化試薬が、誘導体化と脱離イオン化補助剤の両方の機能を有し、MALDI-MSの反応性マトリックスとして機能することが判明した。
MALDI-MSの最大の欠点は、使用できるマトリックスの種類が限られることであり、新たなマトリックスを求める需要は極めて強い。しかし、MALDI-MSの脱離イオン化機構について、その理論は主に推定に基づき、有機化合物のモデリング計算などの手法による新規マトリックスの開発は不可能に近い。従ってこの様なユニークなアプローチにより、これまでの欠点を補完する高機能化マトリックスが開発されれば、MALDI-MSが用いられて来なかった、医療現場、環境分析、ドーピング検査等の分野に多くのビジネスチャンスを生み出すことが期待できる。
成果掲載誌 マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)の現状とその展望.
茂里康, 中田誠, 絹見朋也.
生物工学 第93巻, 307-308 (2015)
成果掲載誌 Hydrazide and hydrazine reagents as reactive matrices for matrix-assisted laser desorption/ionization mass spectrometry to detect steroids with carbonyl groups,
Yasushi Shigeri, Akikazu Yasuda, Masamichi Sakai, Shinya Ikeda, Ryuichi Arakawa, Hiroaki Sato and Tomoya Kinumi.
Eur.J. Mass Spectrom. 21, 79-90 (2015)

HER2のダウンレギュレーションを誘導する化合物

利用者 東京大学
大学院医学系研究科 脳神経医学専攻 神経生物学教室
浅沼大祐先生
内容 ヒト上皮成長因子受容体(HER2)は卵巣がんや乳がんなどで過剰発現が認められ、がん患者の予後の不良と強い相関がある。がんにおけるHER2の発現量を減少させること(ダウンレギュレーション)はがんの悪性化に関わるHER2シグナルを抑える有効な手段であり、安価で抗がん効果が高い低分子化合物をベースとした創薬が期待されている。本研究では、近年申請者らが開発した蛍光プローブの応用を基に、HER2のダウンレギュレーションを高感度かつ高特異的に評価可能なハイスループットスクリーニング手法を開発した。本手法を用いて約155,000種類の低分子化合物についてスクリーニングを実施した結果、HER2のダウンレギュレーションを誘導する化合物(3種類)の特定に成功した。本研究で提案・確立したスクリーニング手法は、その基本概念はHER2以外の病因関連受容体にも応用可能であり、受容体のダウンレギュレーションを誘導する薬剤を探索する有効な手段になると考えられる。
成果掲載誌 High-Throughput Screening System To Identify Small Molecules That Induce Internalization and Degradation of HER2.
Masayuki Isa, Daisuke Asanuma, Shigeyuki Namiki, Kazuo Kumagai, Hirotatsu Kojima, Takayoshi Okabe, Tetsuo Nagano and Kenzo Hirose. ACS Chemical Biology, 9 (10), 2237-2241 (2014)
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hers2
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CREBリン酸化阻害剤の探索

利用者 富山大学
大学院医学薬学研究部分子神経科学講座
石本哲也先生
内容 cAMP response element binding protein (CREB)は、記憶形成や精神神経疾患において重要な働きをする転写因子である。CREBはリン酸化されることによって、 転写活性が上昇することがすでに知られている。我々はホタル発光蛋白質と培養細胞を用いて、CREBリン酸化を阻害する化合物を探索する方法を開発した。この 方法では、CREBリン酸化を検知し、発光上昇を呈するプローブ蛋白質を培養細胞に発現させ、化合物を各ウェルに加える。もし化合物が、CREBリン酸化もしくは CREBリン酸化の上流の酵素を阻害する場合、人工的にCREBリン酸化を誘導する刺激を与えても発光が上昇しない。この技術を利用して、2400種類の化合物の中か らCREB蛋白質のリン酸化経路を抑制する化合物を探索し、候補化合物1種類を絞り込むことに成功した。この化合物は、解析の結果CREBリン酸化の上流のアデニ ル酸シクラーゼの活性を阻害することがわかった。
成果掲載誌 Discovery of Novel Adenylyl Cyclase Inhibitor by Cell-Based Screening.
Hiroki Mano, Tetsuya Ishimoto, Takuya Okada, Naoki Toyooka, Hisashi Mori.
Biol. Pharm. Bull. 37, 1689-1693 (2014)
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compound1
compound1

植物矮化誘導する化合物探索

利用者 秋田県立大学
応用生物科学科
王敬銘先生
内容 植物の矮化を含む植物成長制御技術は、農業生産において不可欠な技術である。本研究では新規植物矮化誘導物質を探索するため、シロイヌナズナの胚軸伸長阻害活性を指標とする化合物の植物矮化誘導活性検定系を用いて、東京大学創薬イノベーションセンターのコアライブラリーをスクリーニングした。2,5-ジメトキシベンゼンスルホンアミド(BSA-1)は植物矮化誘導活性を示し、そのIC50 は約 0.35 ± 0.05μMであることを明らかにした。また、BSA-1の植物矮化誘導活性とジベレリンおよびブラシノステロイド生合成阻害活性との関連を調べた結果、BSA-1は両植物成長ホルモンの生合成を阻害しないことを判明した。さらに、市販されているBSA-1の類縁体を用いて、この系統の化合物の活性発現に必要な化学構造の特徴について解析した。
成果掲載誌 Discovery of a new lead compound for plant growth retardants through compound library screening
Keimei Oh, Tadashi Matsumoto, Tomoki Hoshi, Yuko Yoshizawa, Journal of Pesticide Sciences 39,159-161 (2014).
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BSA-1
BSA-1

炎症時に活性化される酵素LCPAT2阻害剤の探索

利用者 東京大学
医学系研究科リピドミクス社会連携講座
清水孝雄先生
内容 血小板活性化因子(PAF)は、強力な生理活性リン脂質であり、喘息を含むアレルギー疾患や急性呼吸促迫症候群、敗血症等さまざまな呼吸器関連疾患に関与することが知られている。PAFはGタンパク質共役型受容体であるPAF受容体(PAFR)を介してシグナルを細胞内へ伝える。PAF生合成酵素は2種類同定されている(LPCAT2とLPCAT1)。我々はPAF関連疾患を対象とした、より副作用の少ない治療薬候補が見つかる可能性をもとめ、炎症時に活性化されるLCPAT2をターゲットとして、約17万化合物をスクリーニングした。その結果、LPCAT1に比べてLPCAT2を選択的に阻害する化合物が複数同定された。これらは、治療薬候補となるだけでなく、生体内での脂質代謝におけるLPCAT2の役割解明の一端を担うことが期待される。
成果掲載誌 Selective inhibitors of a PAF biosynthetic enzyme lysophosphatidylcholine acyltransferase 2
Megumi Tarui, Hideo Shindou, Kazuo Kumagai, Ryo Morimoto, Takeshi Harayama, Tomomi Hashidate, Hirotatsu Kojima, Takayoshi Okabe, Tetsuo Nagano, Takahide Nagase, Takao Shimizu, J. Lipid Res., 55, 1386-1396 (2014).
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TSI-01 & TSI-02

アルデヒド検出に有用な質量分析用マトリクスの探索

利用者 産業技術総合研究所
健康工学研究部門
茂里康先生
内容 ポストゲノムのニーズとして、タンパク質、糖質、脂質等の生体分子や、薬物代謝物等を簡便に検出する手法の必要性が高まっている。質量分析法はこれらのニーズを満たす測定法であるが、機器のメンテナンス及び操作の複雑さから敬遠されて来た経緯がある。しかし田中耕一先生がノーベル賞を授与された事でも有名になった、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)は、迅速・簡便・高感度という三拍子揃った特徴を有する、ソフトイオン化法である。その結果、MALDI-MSは基礎研究に留まらず、臨床診断等への展開が期待されている。しかし万能の様に見えるMALDI-MSでも、測定には必ず分子量200前後のマトリックスが必要であり、(i)マトリックス由来のピークが邪魔をして、低分子化合物の分析には向いていない、(ii)糖質等の生体分子に対してイオン化しにくい、(iii)高分子量のタンパク質に対しても感度や分解能が低い等の欠点を有する。そこで既存の概念にとらわれずに、一からMALDI-MSのマトリックスを探索する事こそ、あらたなブレークスルーをもたらす戦略であると確信した。そこでペプチド及び低分子化合物(テストステロン)測定試料と東京大学創薬オープンイノベーションセンターのコア化合物ライブラリー(約1万化合物)を用いて、MALDI-MSマトリックス候補のスクリーニング(計2回)を行ったところ、チオフェン骨格を有する導電性化合物がMALDI-MSによるペプチド測定の良好なマトリックスとして働き、導電性という新たな概念がマトリックスの機能発揮に重要であることを発表した(論文Eur. J. Mass Spectrom., 19, 29-37, 2013)。またスクリーニングの結果、ヒドラジン・ヒドラジド化合物がシックハウスガスと縮合反応・誘導体化し、MALDI-MSマトリックスとしてさらに機能し、ガス状分子をMALDI-MSで直接検出出来る事を見いだした(論文J. Mass Spectrom.印刷中)。さらに、ヒドラジン・ヒドラジド化合物について、各種カルボニル基を有するステロイドホルモンを測定試料としてMALDI-MS測定を実施した結果、ヒドラジド・ステロイド縮合複合体、その断片化合物が、正イオンモードで、高感度に検出できることを確認している。つまりステロイド等のイオン化しにくい生体分子でも、ヒドラジン・ヒドラジド等の誘導体化試薬が、誘導体化と脱離イオン化補助剤の両方の機能を有し、MALDI-MSの反応性マトリックスとして機能することが判明した。  MALDI-MSの最大の欠点は、使用できるマトリックスの種類が限られることであり、新たなマトリックスを求める需要は極めて強い。しかし、MALDI-MSの脱離イオン化機構について、その理論は主に推定に基づき、有機化合物のモデリング計算などの手法による新規マトリックスの開発は不可能に近い。従ってこの様なユニークなアプローチにより、これまでの欠点を補完する高機能化マトリックスが開発されれば、MALDI-MSが用いられて来なかった、医療現場、環境分析、ドーピング検査等の分野に多くのビジネスチャンスを生み出すことが期待できる。
成果掲載誌 Hydrazide and hydrazine reagents as reactive matrices for MALDI-MS to detect gaseous aldehydes
Yasushi Shigeri, Shinya Ikeda, Akikazu Yasuda, Masanori Ando, Hiroaki Satob and Tomoya Kinumi.
J. Mass Spectrom 49, 742-749 (2014)

新規抗菌薬の創製

利用者 株式会社ゲノム創薬研究所
管理部門
関水信和 様
内容 化合物ライブラリーより、抗菌活性を示す新規骨格を見いだし、その有機合成展開を行いました。その結果、より毒性が低く、抗菌活性が高い化合物の創出に成功しました。合成した化合物は、多剤耐性のMRSAを含むグラム陽性菌に対して抗菌活性を示しました。本成果は、Journal of Antibioticsに掲載された。
成果掲載誌 Structure-activity relationship study of novel iminothiadiazolo-pyrimidinone antimicrobial agents.
Atmika Paudel, Keiichi Kaneko, Ayako Watanabe, Matsunaga Shigeki, Kanai Motomu, Hiroshi Hamamoto, and Kazuhisa Sekimizu.
J Antibiot 66, 663-667 (2013)
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0002-04-KK
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miRNA前駆体に結合する化合物

利用者 大阪大学
産業科学研究所
中谷和彦先生 / 村田亜沙子 先生
内容 当研究室では,RNAに結合して消光し,リガンドの結合により追い出されて蛍光を発する蛍光指示薬(X2SS)を開発した. この蛍光指示薬を用いて,10種類のマイクロRNA前駆体に対して結合する小分子化合物の探索を行った. 東京大学創薬オープンイノベーションセンターのCore Libraryに含まれる9600化合物をスクリーニングした結果,4つのヒット化合物が得られた.
成果掲載誌 Fluorescent indicator displacement assay of ligands targeting ten microRNA precursors.
Asako Murata, Yasue Harada, Takeo Fukuzumi, and Kazuhiko Nakatani.
Bioorg. Med. Chem. 21, 7101-7106 (2013)
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Eカドヘリン発現を上昇させる化合物

利用者 東京薬科大学
生命科学部ゲノム情報学研究室
深見希代子先生 / 佐藤礼子先生
内容 Eカドヘリン発現を指標としてCore library のスクリーニングを行った結果、大腸癌、メラノーマ細胞においてEカドヘリンの発現を上昇させる化合物を同定した。それらの化合物のうち2つは大腸癌細胞の運動能・浸潤能を抑制し、3つはメラノーマ細胞の運動能・浸潤能を抑制した。このうち2つの化合物は非がん細胞の生存率にほとんど影響を及ぼさなかったことから、新規の抗がん剤としての開発が期待される。
成果掲載誌 Identification of Novel Small Compounds that Restore E-cadherin Expression and Inhibit Tumor Cell Motility and Invasiveness.
Tamaki Hirano, Reiko Satow, Asami Kato, Mana Tamura, Yumi Murayama, Hideyuki Saya, Hirotatsu Kojima, Tetsuo Nagano, Takayoshi Okabe, Kiyoko Fukami.
Biochem. Pharmacol. 86, 1419-1429 (2013)
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白血病再発の主原因「白血病幹細胞」を標的とした低分子化合物を同定

利用者 独立行政法人 理化学研究所
CLST 創薬タンパク質解析基盤ユニット
田仲 昭子先生
内容 理化学研究所は、東京大学・創薬オープンイノベーションセンター(OCDD)から分与を受けた低分子化合物を活用して、白血病幹細胞を標的とした創薬研究に重要な成果をあげた。理研、創薬・医療技術基盤プログラム(DMP)では、インシリコスクリーニングによってヒトHCK酵素を阻害する候補化合物を選択し、これら化合物の一部を東大OCDDから入手し、HCK酵素に対する阻害活性を測定したところ、OCDD由来化合物に阻害活性を見出した。理研では、本化合物をツール化合物として外部より購入し、ヒト白血病幹細胞致死効果を確認し、また、HCKタンパク質と本化合物の共結晶構造解析を実施した。理研DMPではさらに研究開発を進め、化合物RK-20449が、抗白血病薬候補として有望な、強い薬効を持つことを見出した。
成果掲載誌 A Pyrrolo-Pyrimidine Derivative Targets Human Primary AML Stem Cells in Vivo.
Saito Y, Yuki H, Kuratani M, Hashizume Y, Takagi S, Honma T, Tanaka A, Shirouzu M, Mikuni J, Handa N, Ogahara I, Sone A, Najima Y, Tomabechi Y, Wakiyama M, Uchida N, Tomizawa-Murasawa M, Kaneko A, Tanaka S, Suzuki N, Kajita H, Aoki Y, Ohara O, Shultz LD, Fukami T, Goto T, Taniguchi S, Yokoyama S and Ishikawa F.:
Science Translational Medicine, 5, 181ra52(2013)
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RK-20449
RK-20449

抗ポリオウイルス活性を持つ化合物の探索2

利用者 国立感染症研究所
ウイルス第二部第二室
有田 峰太郎先生
内容 WHOポリオ根絶計画における共同研究として、東京大学の有する化合物ライブラリーの一部(72,000化合物)を用いた抗ポリオウイルス活性を持つ化合物の探索を行い、ポリオウイルスの複製に必要とされる宿主因子フォスファチジルイノシトール4リン酸キナーゼ(PI4KB)に対する特異的阻害剤T-00127-HEV1を同定し、これまでに報告した。T-00127-HEV1に対するポリオウイルスの耐性変異は、既知の抗ポリオウイルス化合物であるエンビロキシムに対する耐性変異(ウイルスタンパク3AのAla70Thr変異)と同一であり、実際エンビロキシムは非特異的PI4KB阻害剤であることが後ほど判明した。興味深いことに、この同じ耐性変異を誘導するが、PI4KB活性を阻害しない化合物AN-12-H5を、異なる化合物ライブラリーから我々は以前同定していたが、その標的および作用機序は不明であった。今回の研究では、未検討だった残りの化合物ライブラリー(59,200化合物)を用いて抗ポリオウイルス化合物の探索を行った。結果、3つの候補化合物を同定した。このうち2つはPI4KB阻害剤であったが、残り1つは抗PI4KB阻害活性を持たず、かつ上記の変異が耐性を与えるAN-12-H5と同様の性質を示す化合物(T-00127-HEV2と命名した)であった。Target Identification by siRNA Sensitization (TISS)法により、AN-12-H5およびT-00127-HEV2の阻害活性を上昇させる宿主遺伝子を探索し、標的として宿主遺伝子OSBP family Iを同定した。OSBPに対する高親和性リガンドとして知られている25-ハイドロキシコレステロールは、抗ポリオウイルス活性を持ち、かつ上記の耐性変異を持つウイルスが耐性を示すことから、AN-12-H5およびT-00127-HEV2と同じ群に含まれる抗ポリオウイルス化合物であることが判明した。また、T-00127-HEV1もしくはT-00127-HEV2処理により、宿主細胞のゴルジ体におけるフォスファチジルイノシトール4リン酸が検出されなくなった。
これらの結果から、AN-12-H5およびT-00127-HEV2は、OSBP family Iを標的として、フォスファチジルイノシトール4リン酸の産生もしくは蓄積を阻害し、ポリオウイルスの複製を阻害することが示唆された。
成果掲載誌 Oxysterol-binding protein family I is the target of minor enviroxime-like compounds.
Minetaro Arita, Hirotatsu Kojima, Tetsuo Nagano, Takayoshi Okabe, Takaji Wakita and Hiroyuki Shimizu.
Journal of Virology 87(8), 4252-4260 (2013)
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T-00127-HEV2
T-00127-HEV2

質量分析に有用なマトリクスの探索

利用者 産業技術総合研究所
健康工学研究部門
茂里 康先生
内容 タンパク質やペプチド等の生体分子を、質量分析法を駆使して同定する際に、Matrix-assisted laser desorption ionization (MALDI, マトリックス支援レーザー脱離イオン化)法は、今日広く使われている質量分析法である。特に本方法は、田中耕一博士が開発しノーベル化学賞を授与されたことでも有名である。MALDI法は、マトリックスと試料をあらかじめ混合し、窒素レーザーを照射する事により即座に試料混合物をソフトイオン化させ、迅速な分子量測定が可能である。しかしMALDI法において大きく二つの欠点が存在する。一つは、試料とマトリックスの混合物のソフトイオン化のメカニズムについて謎が多いこと。二つは、代表的なマトリックスはシナピン酸、alpha-cyano-4-hydroxycinammic acid (CHCA)等が開発されているが、MALDI法による測定の際にマトリックス自身やそれら由来の分子量ピークが観察され、低分子量(数百以下の)の試料測定が難しい点である。これまで開発されてきたマトリックスは主に1980年代後半から1990年代前半に開発されており、まだ改良の余地が多い。  そこで東京大学創薬オープンイノベーションセンターから化合物ライブラリーを供与して頂き、ペプチドを測定試料として使用して、マトリックスの機能を有する化合物の探索を行った。その結果、硫黄を含む複素環式化合物のチオフェン骨格を含む化合物群がマトリックスとしての機能を有することを見いだした。チオフェン骨格は、色素増感太陽電池に用いられているある種の色素や、導電性高分子の基本骨格でもある。これまでMALDI法のマトリックスとして必要な条件は、カルボキシル基、水酸基、アミノ基等のプロトン供与に関係する官能基の存在、窒素レーザーの波長付近(337nm等)の吸収等が必要不可欠と考えられていたが、新たに導電性という概念も必要ではないかと示唆された。そこで、既存のマトリックスと今回スクリーニングの結果見いだされたチオフェン骨格を含む化合物の導電性を測定した結果、有意な導電性を観察することができた。またチオフェン骨格を含む化合物群の中で、DCBTA(2-[5-(2,4-dichlorobenzoyl)-2-thienyl]acetic acid)が既存のマトリックスであるCHCAと同程度のマトリックス機能を有することも判明した。
成果掲載誌 A thiophene-containing compound as a matrix for matrix-assisted laser desorption/ ionization mass spectrometry and the electrical conductivity of matrix crystals
Akikazu Yasuda, Takayuki Ishimaru, Shogo Nishihara, Masamichi Sakai, Hideya Kawasaki, Ryuichi Arakawa and Yasushi Shigeri.
Eur. J. Mass Spectrom. 19, 29-37 (2013)
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matrix
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インシリコ技術で見出したサポウイルスプロテアーゼ阻害剤

利用者 国立感染症研究所
病原体ゲノム解析研究センター/ウイルス第二部
横山勝先生/岡智一郎先生
内容 サポウイルスは、ウイルス性食中毒・急性胃腸炎の原因ウイルスであるノロウイルスと同じカリシウイルス科に属する。サポウイルスの複製・増殖にはORF1にコードされているウイルス自身のプロテアーゼが必須である。サポウイルスプロテアーゼは特定のグルタミン酸もしくはグルタミンの直後を切断するが、その基質認識機構の詳細は不明である。これまで、サポウイルスORF1ポリプロテイン中のp70/p60切断部位周辺アミノ酸の変異解析により、少なくともこの部位の切断には、切断点上流4番目のアミノ酸(P4残基)および上流1番目のアミノ酸(P1残基)が重要であることを明らかにしてきた。今回、サポウイルスプロテアーゼの基質認識機構を解析するため、基質が結合したプロテアーゼの分子モデルを構築し、基質結合に関わるプロテアーゼのアミノ酸残基の予測を行った。その結果、P4残基とプロテアーゼのY101が互いにスタッキング構造を形成すること、およびP1 残基とプロテアーゼのK112およびR113などの正に帯電した領域との間で静電相互作用により基質認識を行っていることが示唆された。 サポウイルスプロテアーゼの基質認識に重要な基質側の構造的特徴を持つ化合物は、本来の基質と同様に基質結合部位に結合すると考えられる。本研究により得られた、サポウイルスプロテアーゼの基質認識機構の結果を用いて、プロテアーゼ活性阻害物質のスクリーニングを行った。化合物データベース(約140,000化合物)から、P4に相当する位置に芳香環を持ち、P1に相当する位置に負の電荷を持つ化合物の抽出を試みた。その結果、サポウイルスプロテアーゼ活性阻害物質候補として151化合物を抽出した。これらの化合物の阻害効果の有無を確認するために、化合物存在下における35S標識ORF1ポリプロテインの切断産物パターンを、SDS-PAGEによって解析した。151化合物のうち3化合物において、ポリプロテイン切断に阻害効果が見られた。
成果掲載誌 Structural basis for specific recognition of substrates by sapovirus protease.
Masaru Yokoyama, Tomoichiro Oka, Hirotatsu Kojima, Tetsuo Nagano, Takayoshi Okabe, Kazuhiko Katayama, Takaji Wakita, Tadahito Kanda and Hironori Sato
Front. Microbiol. 3, 312 (2012).
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ケトステロイド異性化酵素の親和性・特異性創出機構精密解析

利用者 東京大学医科学研究所 疾患プロテオミクスラボラトリー
河邉昭博先生 / Jose Manuel Martinez Caaveiro先生
津本浩平先生(東大院新領域)
内容 既に広く知られているように、蛋白質における低分子化合物の認識には複数の弱い相互作用を緻密な設計に基づいて配置、構築した強固な相互作用系が必須である。この蛋白質と低分子化合物との相互作用の本質的な理解はより精密な分子デザインを可能とし、特に低分子化合物をスクリーニングする際のバイアス強化が期待される。本研究では結晶構造、機能について既に解析が行われているケトステロイド異性化酵素(KSI)に対して低分子化合物スクリーニングを行うことによって、親和性・特異性創出機構についての詳細な検討を行った。  発現・精製したKSIと分子量・溶解度の観点から選出した低分子化合物ライブラリ(約2000化合物)とのスクリーニングは表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて行った。センサーチップ上にKSIをアミンカップリングにより固定化し、各低分子化合物との結合量を測定することでヒット化合物を選出した。  更に、ヒット化合物の構造類似性を元に絞り込みを行い、等温滴定熱量測定を用いた熱力学的解析及び結晶構造解析から、KSIの親和性・特異性創出機構の原点を追求した。⇒発表ポスターへのリンク
学会発表 第五回バイオ関連化学シンポジウム, 2011.9.12-14
つくば国際会議場「エポカルつくば」

新規蛍光スクリーニング法で得たプロリン異性化酵素(pin1)とシクロフィリンデュアル阻害剤

利用者 東北大学農学系研究科
内田隆史先生
内容 我々が標的分子として注目した、Pin1が属するPPIaseファミリーは、多種類のシクロフィリンとFKBP、および2種類のパルブリン(Pin1とhPar14)の3つのサブファミリーからなる。これらの酵素は多様な機能を有しているが、共通の機能として挙げられるのは、基質となる蛋白質中のプロリン分子のcis/trans構造の異性化を触媒し蛋白質のフォールディングを助けるシャペロンとしての機能である。タンパク質が転写、翻訳されフォールディングするとき、 プロリン部分がcis – ペプチドにならないとうまくフォールディングできない場合があり、多くの場合、プロリンの異性化がタンパク質フォールディングの律速段階となっている。 PPIaseはプロリンのペプチド結合を異性化することで、速やかなフォールディングを助けている。 我々は、以前より、ハイスループットではないが、基本的なPPIaseの活性測定法を確立していた。その方法の基本的な原理は、プロリン異性化酵素の基質となるペプチドがtrans体になったときのみに、特異的にプロテアーゼ活性を示すプロテアーゼとプロリン異性化酵素を組み合わせることで酵素活性を測定しようというものである。プロリン異性化酵素でtrans型になった基質は、プロテアーゼにより切断を受けるが、切り出された配列が蛍光もしくは吸光物質であればその吸光度や蛍光を測定することにより酵素反応を測定できる。 我々は、この測定方法を応用し、1サンプルずつ測定を行う、従来の方法から、96または384ウェルプレート単位で測定を行えるように、浜松ホトニクス社のFDSS (名称の由来はFunctional Drug Screening System) を応用して利用することを試みた。本装置は通常、その名の通り、様々な蛍光プローブに対応した、細胞を利用するCell-Based Assayシステムとして開発され、主に、細胞内のカルシウム動態を、蛍光Dyeを使用することにより測定する装置として、G蛋白質共役型受容体 (GPCR) やイオンチャンネルの測定に使用されている。我々は、本装置の備える機能がPPIaseのスクリーニング系にも応用できると考え、検討を開始した。PPIase非存在下でもcis/transの異性化は平衡反応として、非常に速く進むため、これまでは、酵素非依存的なバックグランドの反応を、低温下で行うことが、酵素活性の測定には必須の条件であった。HTSの場合、アッセイを全て低温で行うには機器ごと低温室に設置して試験を行う必要があるが、そのような条件での使用を保障する機器は少なく、現実的でない。このような状況を打破する為に、室温条件でも測定が可能な試験系を構築することを考えた。その為には、Sub-Second 単位で変化する反応速度の正確な測定が出来る機器が必要であった。これを実現するには、高感度で、時間分解能の高い測定機器であること、処理効率が高く、試験系の精度も高い機器である事等の条件をクリアしなければならない。このような条件を満たす機器ということで候補に上がったのがFDSSであった。FDSSは高感度なCCDカメラを搭載し、plate内の全wellの測定を最小で0.1秒毎に実施することが出来る。また、測定庫内に分注機を備えており、測定中に基質を添加することが可能である為、酵素反応開始直後の非常に速い蛍光値の変化を精度良く観察できる。実際、FDSSを使用してみると、0.5秒おきの測定が可能であり、室温での連続的なプロリン異性化酵素の活性測定が可能になった。また、FDSSは測定機内に備え付けられたCCDカメラにより一度にプレート内の全ウェルの蛍光強度を測定できるため、一般に行われている酵素活性の調節剤探索と同様に、これまで困難と思われていたプロリン異性化酵素の活性調節剤の探索が可能になった。これは、工夫次第でユニークで独創的な試験系が構築できることを示している。実際、この試験系を使って、東大生物制御ライブラリー機構の低分子化合物ライブラリーのHTSを実施したところ、そのヒット化合物からは、Pin1のみならず、サイクロフィリンにも阻害作用を有する新規のDual inhibitor骨格を取得した。また、我々は、分子間相互作用測定装置を用いて基質ペプチドと酵素の結合を特異的に阻害する薬剤を探索する方法も確立しており、ドッキング・スタディを組み合わせた解析により、Pin1阻害薬の結合様式について詳細に検討を進めた。その結果、ヒット化合物の1つであるTME-001はPin1の基質結合部位に基質競合的に結合することが解った。これらの生化学的、生物物理的な薬剤探索法で発見した化合物は、次に、その効果を細胞レベルでも明らかにした。化合物の細胞レベルでの評価はPin1の細胞周期の制御作用を利用して、血清飢餓からの細胞増殖再スタート時におけるTME-001の作用を検討した結果、我々が作成したPin1遺伝子欠損MEF細胞で認められる血清飢餓からの回復の遅れが、TME-001処理細胞で認められた。このことから我々は、細胞試験でもPin1の阻害作用を有する新規のDual inhibitor骨格を取得し、今後の創薬に繋げられる化合物群の取得に至った。
成果掲載誌 A dual inhibitor against prolyl isomerase Pin1 and cyclophilin discovered by a novel real-time fluorescence detection method.
Tadashi Mori, Masafumi Hidaka, Yi-Chin Lin, Ibuki Yoshizawa, Takayoshi Okabe, Shinichiro Egashira, Hirotatsu Kojima, Tetsuo Nagano, Mamoru Koketsu, Mari Takamiya, Takafumi Uchida,
Biochem. Biophys. Res. Commun. 406, 439-443 (2011).
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TIME-001
TIME-001

WHOポリオ根絶計画における共同研究-抗ポリオウイルス活性を持つ化合物の探索-

利用者 国立感染症研究所 ウイルス第二部第二室
有田峰太郎先生
内容 WHOポリオ根絶計画における共同研究として、本機構の有する化合物ライブラリーを用いた抗ポリオウイルス活性を持つ化合物の探索を行った。抗ポリオウイルス化合物は、ポリオ根絶後のワクチン由来株の再流行の制御およびポリオウイルスに慢性感染している患者の根治治療における有効性が期待されている。
WHOポリオ根絶計画における共同研究として、本機構の有する化合物ライブラリーを用いた抗ポリオウイルス活性を持つ化合物の探索を行った。抗ポリオウイルス化合物は、ポリオ根絶後のワクチン由来株の再流行の制御およびポリオウイルスに慢性感染している患者の根治治療における有効性が期待されている。
T-00127-HEV1に対するウイルスの耐性変異を解析したところ、エンビロキシムという既知の抗エンテロウイルス化合物に対するウイルスの耐性変異と同一の変異(ウイルスタンパク3AのAla70Thr変異)がウイルスの耐性に重要であることが明らかとなった。さらに標的が既知の抗エンテロウイルス薬PIK-93(フォスファチジルイノシトール4リン酸キナーゼ(PI4KB)阻害剤)の解析により、PIK-93に対するウイルスの耐性変異もこれらと同一であることが明らかとなり、T-00127-HEV1の標的がPI4KBである可能性が示唆された。
PI4KBを含むフォスファチジルイノシトールキナーゼの活性に対するT-00127-HEV1の阻害活性を解析した結果、T-00127-HEV1はPI4KBに特異的な阻害剤であることが明らかとなった。T-00127-HEV1のウイルス複製阻害効果のエンテロウイルスへの特異性を解析するために、他のRNAウイルスであるC型肝炎ウイルス(HCV)に対する阻害効果を解析したところ、T-00127-HEV1はHCVの複製を全く阻害しなかった。
これらの結果から、T-00127-HEV1はPI4KBを標的とするエンテロウイルス特異的阻害剤であり、有望なリード化合物となる可能性が示唆された。
成果掲載誌 Phosphatidylinositol-4 kinase III beta is a target of enviroxime-like compounds for anti-poliovirus activity, Minetaro Arita, Hirotatsu Kojima, Tetsuo Nagano, Takayoshi Okabe, Takaji Wakita, and Hiroyuki Shimizu, J. Virol. 85, 2364-2372 (2011).
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T-00127-HEV1
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フラグメントライブラリーの測定経験から得たSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法

利用者 東京大学 大学院 新領域創成科学研究科 メディカルゲノム専攻
津本浩平先生
内容 「フラグメントライブラリーの測定経験から得たSPR/ITC戦略の実効性と効率的活用法」フラグメントライブラリーから良質のヒット化合物をSPR(表面プラズモン共鳴)法で見出すためには非特異的吸着の仕組みを理解し制御することが重要です。今回我々はセンサーチップへのタンパク質固定化量が非特異的吸着に大きな影響を及ぼすことを見出しました。またヒット化合物の検証にはITC(等温滴定カロリメトリー)が有用であることを確認しました。
学会発表
  • BIA symposium, 2010.7.16
    東京・品川プリンスホテル
  • DiPIA 2010, 2010.10.17-20
    Pullman Barcelona Skipper Hotel, Barcelona Spain

C型肝炎ウイルス増殖阻害剤

利用者 大阪大学 微生物病研究所
松浦善治先生
内容 日本には2百万人ものC型肝炎ウイルス(HCV)に感染している患者さんがいます。 C型肝炎の治療法も進歩して、半分の患者さんからウイルスを駆除できるようになりましたが、残りの患者さんには有効な治療法がありません。私たちはHCVの感染を高感度に検出できるシステムを開発し、新しい阻害剤の開発を試みました。そして、HCVの増殖を阻止できる活性を持った二つの化合物を見つけることができました。
成果掲載誌 Establishment of an indicator cell system for hepatitis C virus,
Yoshinori Tanaka, Yoshio Mori, Hideki Tani, Takayuki Abe,
Kohji Moriishi, Hirotatsu Kojima, Tetsuo Nagano, Takayoshi Okabe,
Tetsuro Suzuki, Masashi Tatsumi, Yoshiharu Matsuura,
Microbiology and Immunology 54, 206-220 (2010)
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